石破首相、自民党総裁辞任を表明:次期総裁選の有力候補と日本政治の転換点

石破茂首相は、9月7日午後6時から行われた記者会見で自民党総裁の辞任を表明しました。この決断は、対米関税交渉に一つの区切りがついたこと、そして臨時総裁選の前倒し要求が党内の決定的な分断を招くことを避けるため、「苦渋の決断」であったと説明されました。これにより、日本政治は新たな局面を迎え、次期総裁選の行方に大きな注目が集まっています。

会見の冒頭で石破首相は、党則6条2項に基づく「任期中に総裁が欠けた場合の臨時総裁選」(総裁辞任時の通常パターン)を実施するよう森山裕幹事長に伝えたと強調しました。これは、翌8日に予定されていた「臨時総裁選の前倒し要求」(事実上のリコール要求)の意思確認手続きを行う必要がないことを示すもので、賛同が過半数を超える見通しが強まっていたことが、辞任判断の大きな要因となったことがうかがえます。

石破首相退陣の背景と党内情勢

石破首相は、7月20日の参議院選挙敗北後、「地位に恋々とするつもりはない」と述べつつも、7月28日の両院議員懇談会や8月8日の両院議員総会では一貫して辞任を否定し、続投に強い意欲を示していました。しかし、党内の情勢は日ごとに厳しさを増していきました。

転機となったのは、9月2日の両院議員総会です。党運営・国会対策の要である森山幹事長が辞意を表明し、小野寺五典政調会長、鈴木俊一総務会長、木原誠二選対委員長ら党四役がそろって進退を首相に一任する事態に追い込まれました。さらに、3日には麻生太郎元首相が総裁選前倒し要求への署名を明言し、麻生派の鈴木馨祐法相も現役閣僚として初めて賛同を表明。党内からの退陣圧力が表面化しました。最終的に、6日夜には菅義偉元首相(副総裁)が小泉進次郎農水相とともに首相公邸を訪れ、党内情勢を伝え説得に当たったとされています。「党を分裂させてはならない」という菅元首相の言葉が、事実上の引導を渡す形となったことは、政権誕生の立役者である同氏の影響力の大きさを物語っています。

自民党総裁辞任を表明する石破首相(9月7日)、党内情勢が退陣を後押し自民党総裁辞任を表明する石破首相(9月7日)、党内情勢が退陣を後押し

次期自民党総裁選の有力候補たち

今後、石破首相の後任を選ぶ総裁選が実施されます。党員・党友も投票する「フルスペック型」になるか、「簡易型」になるかはまだ決定していませんが、これまで自民党総裁選は広く国民的な関心を集めてきました。特に、2024年9月に行われた前回の総裁選では9人もの候補者が乱立し、大いに注目を集めました。

前回の総裁選の結果(1回目の投票:高市早苗181票、石破茂154票、小泉進次郎136票など)を踏まえると、順当に進めば、今回の総裁選でも高市早苗元総務相や小泉進次郎農水相が有力候補となるでしょう。これらの候補が立候補しなければ、総理総裁への意欲が疑われかねない状況です。

高市早苗氏:初の女性宰相への期待

特に高市氏は、林芳正氏が官房長官、加藤勝信氏が財務大臣として入閣したのに対し、一貫して石破政権に距離を置き、好位置につけていると言えます。高市政権が誕生すれば、わが国で初の女性宰相が生まれることになり、その動向には国民の大きな期待と関心が寄せられています。彼女のこれまでの政策スタンスや党内での立ち位置が、今回の総裁選で有利に働く可能性が高いです。

小泉進次郎氏:「石破後継」と国民的人気

これに対し、「石破後継」を掲げて政策推進の継続性を訴えることもできるのが小泉進次郎農水相です。コメ価格高騰問題では、賛否両論はあったものの、その精力的な陣頭指揮ぶりは連日のようにニュースで報じられ、国民的人気は今も高いと言えます。辞任表明前夜に菅元首相とともに首相公邸を訪れた際も、菅氏退室後も長時間、石破首相と話し込んだとされています。2021年9月に当時の菅首相が退陣を表明した際も、環境相だった小泉氏は首相官邸を4日連続で訪れて説得に当たっており、時の最高権力者の去就に重ねて関与する経験は、彼の政治的影響力を示すものです。

ダークホースとその他の注目候補

これまで総裁選に出馬したことがない新人候補にも注目が集まります。ダークホースとなり得るのが、赤澤亮正・経済再生担当相です。石破首相の最側近としてトランプ政権との関税交渉を担当し、最低賃金の引き上げにも意欲的な動きを見せるなど、その手腕が評価されています。総裁選出馬に必要な推薦人20人を集められれば、面白い展開となるでしょう。

対米交渉の実務という観点からは、茂木敏充元外相や林芳正官房長官、河野太郎元外相の出馬意向も注目されます。また、党刷新の清新さという点では、小林鷹之元経済安保相や斎藤健元経産相ら若手・中堅の動きも見逃せません。これらの候補者も、それぞれの実績と支持基盤を背景に、総裁選の舞台に立つ可能性があります。

日本政治の転換点:新総裁への課題

いずれにしても、自民党新総裁が次期首相に選出されるためには、現在与党で過半数割れを起こしている衆議院において、何らかの野党勢力と連携することが不可欠となります。野党党首を新連立政権の首班に担ぐ事態も十分に考えられ、政治的な交渉と戦略がこれまで以上に重要となるでしょう。

また、新首相は、ドナルド・トランプ政権との関係をどう構築するか、あるいは中国とどのような外交関係を取り結ぶかという、喫緊かつ厳しく問われる外交課題にも直面します。この秋は、日本の政治が大きな転換点を迎える季節となることは間違いありません。新総裁の選出は、今後の日本の国内外における政策の方向性を決定づける重要なイベントとなるでしょう。


参考文献:

  • Yahoo!ニュース: 「<参院選敗北後、粘りに粘っていた石破首相が自民党総裁の辞任を表明した。後任選びに焦点が移るが、誰もが思い描く本命や対抗のほか、意外なダークホースが飛び出す可能性もある>」 (Newsweek Japan 掲載記事)
    • URL: https://news.yahoo.co.jp/articles/4e1325a84bbc5b8f609d09b865bc481c0a095f5a
  • Newsweek Japan: 「世論が望まぬ「石破おろし」で盛り上がる自民党…次の選挙しだいで、日本政治はここまで変わる」
    • URL: https://www.newsweekjapan.jp/kaya/2025/09/post-340.php