読売新聞の「石破首相退陣誤報」徹底検証:謝罪文の真意と政治家の発言責任

昨日の読売新聞朝刊一面は「石破首相退陣表明」(9月8日)と報じた。しかし、わずか47日前、同紙は7月23日に「石破首相 退陣へ」と号外を配り、7月中の表明を伝えていた。この一度は誤報とされた報道が、後に現実となった経緯は、メディアの正確性と政治家の発言の重みを改めて問いかけるものだ。本記事では、読売新聞が発表した「謝罪と検証記事」を深掘りし、当時の石破氏の発言の真意と、それに伴う波紋を検証する。

読売新聞の「異例の謝罪」が問いかけるもの

首相の退陣表明が9月7日であったため、7月の報道は事実上の「誤報」となった。これを受け、読売新聞は9月3日に退陣誤報に関する謝罪と検証記事を掲載した。その謝罪文は、ジャーナリズムの世界でも異例と言えるほど「絶品」であった。特に、「東京本社専務取締役編集担当」による以下の言葉は、その内情を雄弁に物語っている。

「本紙は、石破首相の『辞める』との発言を常に正確に把握していました。しかし、石破首相は辞任せずに、結果として誤報となりました。新聞には正確性が何よりも求められます。読者の皆様に深くおわび申し上げます」

この謝罪文からは、単なる過ちを認める以上の複雑な感情が滲み出ている。「石破首相は辞任せずに、結果として誤報となりました」という表現は、まるで石破氏が発言を翻したために誤報になったと示唆しているかのようだ。謝罪の体裁を取りながらも、読売新聞の取材には確証があったという自負と、裏切られたかのような怒りさえ感じさせる。これは、竹中直人氏の「笑いながら怒る人」というギャグを彷彿とさせる、歴史的とも言える声明だった。

辞任を表明した石破茂首相。メディア報道の正確性が問われた背景辞任を表明した石破茂首相。メディア報道の正確性が問われた背景

石破氏の「辞める」発言の真偽と周辺の動き

読売新聞の検証記事によれば、石破首相が周囲に「辞める」と明確に語ったのは、日米関税交渉のために赤沢経済再生相が訪米中の7月22日夜、参院選投票日のわずか2日後のことだったという。その際、石破首相は以下のように発言したとされる。

「関税交渉の結果が出たら、辞めていいと思っている。(その場合は、臨時国会の召集日である)8月1日より前に記者会見を開いて辞意を表明する。辞めろという声があるのなら辞める。責任は取る。(8月20日~22日の)TICAD(アフリカ開発会議)は俺がやるよ。もう辞めると言った後だけど」

この具体的な発言内容からは、石破氏が当時、真剣に退陣を検討していたことが窺える。しかしながら、その後、石破氏から実際に辞任する気配は見られなかった。長年石破氏を取材してきたジャーナリストの鈴木哲夫氏によると、石破氏は当初からきっぱりと退陣を否定していたという。この食い違いは、政治家の発言の多義性や、報道における情報源の解釈の難しさを示している。

まとめ

読売新聞の「石破首相退陣誤報」とその後の謝罪、そして実際の退陣という一連の出来事は、メディアの報道の正確性、情報源の信頼性、そして政治家の発言の真意という、ジャーナリズムと政治における重要な課題を浮き彫りにした。情報が錯綜する現代において、読者は一つの情報源に頼るのではなく、多角的な視点から事実を検証し、批判的に思考する能力がこれまで以上に求められている。この一件は、私たちにメディアリテラシーの重要性を改めて教えてくれる教訓と言えるだろう。

参考文献

  • 読売新聞 2025年9月8日付朝刊、7月23日付号外
  • 毎日新聞 2025年7月24日付朝刊
  • 読売新聞 2025年9月3日付特別面(誤報に関する謝罪と検証記事)
  • 文春オンライン (https://bunshun.jp/articles/-/82022)