2011年12月1日、大阪府堺市で84歳の男性が強盗殺人の被害者として発見された。場所は自宅。エリート街道を歩み、人柄の良さで知られた人物だった。その約1カ月前、同じ市のショッピングセンター駐車場で、67歳の女性が行方不明となっていた。
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逮捕されたのは50歳の男。この2つの事件が男による「連続強盗殺人事件」となったとき、世間を震撼させたのは身勝手な犯行理由と無慈悲な殺害方法である。仮釈放中の犯行だったため、更生保護制度についても議論となった。さらには、裁判で弁護側が「死刑制度の是非」を持ち出したことで別の議論を呼ぶことに――。当時の「週刊新潮」から事件を振り返る。
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行きつけの店で晩酌を終えて
(以下、「週刊新潮」2011年12月15日号を再編集しました。文中の年齢等は掲載当時のものです)
線路脇に並ぶ赤ちょうちんに灯が点る夕暮れ時、84歳のご隠居が、見慣れた暖簾に手をかけた。
彼は、7、8人も入れば一杯になる、この立ち飲み屋での晩酌を好んだ。来し方行く末に思いを馳せるかのように、静かにゆっくりと飲んでいる。アテはどて焼きに酢豚。いつもは芋焼酎だけれど、この日は日本酒。
小一時間で2、3杯を干し、幾日かしたら、また、その暖簾をくぐるはずだったが――。
「翌12月1日の午前中、強盗事件の被害者として見つかったんです」と、大阪府警に詰める記者が話す。
「被害者は、象印マホービンの副社長だったAさん。JRの駅前にある立ち飲み屋から歩いて数分のところに、Aさんは一人で暮らしていたんですけど……」
元副社長の足どりは、
「前日11月30日の午後、高齢者福祉施設に入っている奥さんを見舞ったあとに立ち飲み屋に寄り、コンビニでサンドイッチを買って帰宅しました」
不審に思った銀行員が連絡
これが午後6時半ごろのこと。1時間ほどしてから、
「Aさんが自宅近くに所有しているマンションの管理人が、住人から集めたひと月分の家賃、約80万円を届けています」
そして1日の朝9時半前。
「家賃を受け取る約束をしていた銀行員が訪れると、応答がない。不審に思った銀行員は警備会社に連絡を入れました」
10時20分、駆けつけた警備会社社員と地域の自治会長が家に入り、
「2階の納戸で、口や鼻に粘着テープが貼られた上に顔をラップでぐるぐる巻きにされ、段ボール梱包に使われる結束バンドで両手足を縛られて転がっているAさんを見つけます。心肺停止状態でした」
病院に搬送されたものの、酸素欠乏で失命した。
「室内には1日付の朝刊が取り込まれ、食べかけのサンドイッチと味噌汁が残っていたので、朝食時に襲われたとみています」とは、北堺署に置かれた捜査本部の関係者。
「犯人は、被害者宅の内情を知悉している人物と思われます。過去に泥棒被害に遭ったことからつけていた警報装置が作動していないし、窓を割ったりして無理やり侵入した形跡もない。そして、家賃が入った、まさにその時を狙っているわけですから。高価な骨董品などに手をつけていないのは、銀行員の訪問を察知したからでしょう」
(以上、「週刊新潮」2011年12月15日号を再編集)
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