深夜の自動車専用道路で、突然の衝突事故により人生を奪われる。都内在住の会社経営者Aさんが知人Sさんの悲劇的な死の知らせを受けたのは、2週間後のことでした。Sさんは神奈川県下の自動車専用道路に徒歩で侵入し、トラックと衝突。意識不明の重体となり、懸命な治療も虚しく命を落としました。飲酒後の誤進入の可能性も指摘されており、この痛ましい事例は、自動車専用道路における歩行者侵入の危険性と、それに伴う法的・社会的な責任の問題を浮き彫りにしています。本記事では、このような高速道路への歩行者立ち入りの実態、その主な原因、そして関連する罰則規定の有無について、詳細に解説します。
悲劇の事例:深夜の自動車専用道路での衝突事故
この事故は、8月下旬の深夜に発生しました。Aさんの親しい知人であるSさんは、神奈川県内の自動車専用道路に歩いて侵入したところ、走行中のトラックと衝突。顔面を強打するなど重篤な損傷を負い、意識が戻らないまま集中治療室で人工呼吸器を装着する状態が続きました。結局、事故から2週間後に死亡が確認されました。具体的な原因は不明ながら、Sさんが夜に飲み歩くこともあったため、泥酔状態で道を誤り、自動車専用道路に誤進入した可能性も否定できません。信号がなく、時速50キロメートル以上で車が高速走行する専用道路において、歩行者の存在は予測不可能であり、事故に直結する極めて高いリスクを伴います。
自動車専用道路を走行中の車。歩行者との接触事故の危険性を表現
首都高における歩行者立ち入りの現状と増加傾向
このような危険な歩行者侵入は、決して稀なことではありません。首都高速道路株式会社(以下、首都高)の発表によると、自転車や歩行者の「立ち入り」は年間約400件程度(立ち入り者の保護件数)発生しています。特に、歩行者による首都高への立ち入りは、2024年度に160件を記録。2020年から2022年のコロナ禍においては一時的に減少しましたが、2023年以降はコロナ禍以前と同水準で再び増加傾向にあります。この統計は、都市部の高速道路における歩行者侵入問題が、継続的な課題であることを示しています。
なぜ発生するのか?歩行者侵入の主な原因と具体例
首都高が把握している2024年度の歩行者立ち入りの内訳を見ると、最も多かったのは外国人によるもので50件、次いで誤進入が32件、その他が30件、認知症によるものが25件、そして酒酔いによるものが23件でした。これらのデータから、いくつかの具体的な事例が浮かび上がってきます。例えば、高齢者が一般道路と高速道路を間違えて進入するケース、多量の飲酒により判断能力が低下し、高速道路の認識ができずに進入してしまうケース、さらには、自宅に帰る途中で料金所へ道を聞くために入り込んだり、過去の未払い料金を支払うために料金所へ向かおうとしたりするケースも確認されています。これらの事例は、様々な背景を持つ人々が、意図せずして極めて危険な状況に身を置いている実態を示しています。
首都高速道路への歩行者立ち入り内訳を示すグラフ。外国人、誤進入、認知症、酒酔いなどが要因
高速道路への歩行者立ち入り:法的規制と罰則の有無
それでは、このように危険な高速道路への歩行者立ち入りに対して、法的な規制や罰則は存在するのでしょうか。交通事故問題に詳しい鈴木淳志弁護士によると、「歩行者が高速道路に立ち入ることは、高速自動車国道法17条1項で禁止されています。また、自動車専用道路に立ち入ることは、道路法48条の11第1項で禁止されています」とのこと。このように明確な法的禁止はありますが、重要な点として「ただし、歩行者に対する罰則規定はありません」と鈴木弁護士は解説します。つまり、法律で禁止されている行為ではあるものの、現在のところ、立ち入った歩行者自身に直接的な刑事罰が科されることはないのです。しかし、万が一事故が発生した場合、民事上の過失責任や損害賠償といった別の法的問題が発生する可能性は大いにあります。
まとめ
自動車専用道路や高速道路への歩行者侵入は、死亡事故に繋がる極めて危険な行為であり、その背景には飲酒、誤進入、認知症、外国人による地理的認識の不足など、多様な要因が存在します。首都高の統計からは、この問題が依然として深刻であることが示されています。法的規制としては、高速自動車国道法や道路法により立ち入りは明確に禁止されていますが、歩行者に対する直接の罰則規定は設けられていません。この現状は、運転者、歩行者双方にとっての交通安全意識の向上と、道路管理者による一層の注意喚起や対策の重要性を浮き彫りにしています。悲劇的な事故を未然に防ぐためにも、私たち一人ひとりが高速道路の危険性を深く認識し、適切な行動をとることが求められます。