9月7日、自民党総裁辞任の意向を表明し、事実上の退陣へと追い込まれた石破茂首相。この政権交代劇の「滅びの鐘」を鳴らしたのは、意外にも岸田文雄前首相でした。かつて石破政権の「生みの親」と称されながら、手のひらを返したかのように石破首相を「使い捨て」にする岸田氏の動きは、自民党が大混乱に陥る中で新たな「闇将軍」の誕生を予感させます。彼はこの機に乗じ、自らの影響力を「キングメーカー」として確立しようと、着実に動き出しているのです。
「キングメーカー」としての岸田氏の戦略
ポスト石破政局において、岸田文雄前首相が「キングメーカー」としての存在感を増しているのは疑いようのない事実です。政治ジャーナリストの宮崎信行氏は、岸田氏のこの政治手法の意図について、深く洞察しています。「安倍派解体の絵を描いたのは岸田氏ですが、その『汚れ役』を担わされたのは石破首相であり、岸田氏自身は批判の火の粉をかぶることはありませんでした。そして、役割を終えた石破氏を切り捨てることで、最大派閥であった旧安倍派を弱体化させ、自身のキングメーカーとしての力を強化しようとしたのでしょう」と宮崎氏は指摘します。この戦略は、岸田氏が自らの政治的優位性を確立するための巧みな手腕を示しています。
「派閥解散」宣言の裏で進む旧岸田派の再建
驚くべきことに、岸田氏は「派閥解散」の宣言とは裏腹に、旧岸田派の再建を着々と進め、党内での求心力を高めています。昨年9月3日に総務省へ派閥の解散届を提出したわずか翌日には、彼は「派閥活動解禁」とばかりに、旧岸田派の議員が経営する山梨県のホテルで開催された若手議員の会合に出席。その後も旧岸田派の議員たちとの会合を頻繁に開くなど、活発な活動を再開させています。これは、表向きの解散とは異なる、実質的な派閥復活への動きに他なりません。
参院選での支援と新人議員の取り込み
今年7月の参院選では、岸田氏の再建への意欲がさらに明確になりました。彼は全国を回り、旧岸田派候補の応援に奔走。特に激戦区であった長崎には、旧岸田派の「秘書軍団」を応援に投入するなど、組織的な支援を展開しました。党内では「完全に派閥選挙のやり方であり、岸田派は実質的に復活している」(無派閥議員)との見方が広まっています。
派閥入会のセレモニーである新人議員との食事会も復活しました。参院選後の8月18日には、岸田氏と林芳正官房長官、松山政司党参院議員会長、宮沢洋一党税制調査会長ら旧岸田派幹部が、初当選した新人議員4人や、無派閥ながら旧岸田派への入会を希望する議員らを招いて盛大な食事会を開催し、お披露目を行いました。旧岸田派関係者によると、「この夜の食事会の際、岸田さんは幹部たちと総裁選前倒しへの対応を協議した」とされています。これは、岸田氏が「数は力」という自民党派閥政治の根源的な論理に基づき、ポスト石破の総裁選びに決定的な影響力を行使しようと、周到な布石を打ってきたことを明確に物語っています。
ポスト石破政局で存在感を増すキングメーカー、岸田文雄前首相
結論
岸田文雄前首相は、石破茂首相の退陣を契機に、巧みに自身の「キングメーカー」としての地位を確立しつつあります。彼は表向きの「派閥解散」とは裏腹に、旧岸田派の再建を着実に進め、参院選での支援や新人議員の積極的な取り込みを通じて、党内での「数」の力を再構築しています。この動きは、「ポスト石破総裁選び」において、岸田氏が決定的な影響力を持つ「新たな闇将軍」として君臨する準備が整いつつあることを示唆しています。日本の政局は、岸田氏の戦略的行動によって、新たな局面へと突入しようとしています。
参考文献: