静岡県伊東市の田久保眞紀市長(55)は、失職の瀬戸際に立たされています。市長の続投を最大の争点とする市議会議員選挙の投開票が10月19日に迫る中、地元伊東市では有権者の間にしらけムードが漂い、選挙への関心の低さが浮き彫りとなっています。市民の期待と不安が交錯する中、この伊東市議選は、単なる地方選挙を超え、伊東市政の未来を問う重要な局面を迎えています。
伊東市の田久保眞紀市長、失職の危機に直面
伊東市議選、低調なスタート:田久保市長の去就巡る複雑な情勢
市議選の告示日である12日、田久保市長の姿は伊東駅前にありました。彼女は新人候補の片桐基至氏(45)の応援に駆けつけ、「市議会にも新しい風が必要だと思って議会を解散した。新しい伊東をつくっていきたい」と市政変革への意欲を訴えました。しかし、聴衆はわずか4~5人程度で、周囲のほとんどは集まった報道陣。この光景は、今回の伊東市議選が盛り上がりに欠けるスタートとなった現状を象徴していました。
地元紙記者の説明によると、今回の市議選は定数20に対し、前職18人、新人12人の計30人が立候補し、激戦が予想されました。しかし、告示日が毎年恒例の秋祭りの開催日と重なったため、多くの候補者が街頭演説を取りやめるなど、選挙運動全体が静かな出だしとなりました。市民の関心は、市長の去就と市議会の刷新という重要なテーマにもかかわらず、分散している様子が窺えます。
「田久保派」の異色候補、片桐基至氏の挑戦
田久保市長が隣に立ってエールを送った片桐基至氏は、新潟県出身の元航空自衛隊員という異色の経歴を持ちます。2016年に新潟県阿賀野市議選に幸福実現党公認で出馬し初当選。その後、伊東市に移住し参政党に鞍替えしましたが、2023年の伊東市議選出馬前に離党し、落選を経験しています。現在は造園業を営む片桐氏は、地元報道機関のアンケート調査で唯一、市長への不信任案再提出に「反対」と回答し、「田久保派」を公言する姿勢を明確にしています。
片桐氏は取材に対し、「(出馬は)田久保さんに頼まれたわけではありません。ただ彼女のことは応援しており、学歴詐称の件もできる範囲内で説明していると思います。田久保さんが生み出した市政変革の熱を私も継続させ、伊東を変えていきたい」と語り、田久保市政の理念を引き継ぎ、伊東市の活性化を目指す考えを示しました。彼の存在は、今回の市議選における田久保市長の立場を支持する層の意思を代表していると言えるでしょう。
「不信任案だけではない」:多様な視点を持つ候補者の声
一方で、前出のアンケート調査では、26人が不信任案提出に賛成と回答したものの、「無回答」とした候補者も3人いました。彼らの意見は、今回の市議選が単に田久保市長の信任・不信任を問うだけではない、より深い地方政治の課題を抱えていることを示唆しています。
その一人、「コンテンポラリー風水師」を名乗る新人、梅田和江氏(66)は、「今回は不信任案を出すか出さないかを問う選挙ではないはずです。田久保さんを支持していますが、もっとふさわしい市長が出てくれば、それはそれでいいとも思っています」と述べ、市民が市政に求める本質は、特定の人物の去就を超えたところにあると主張しました。
また、ドイツ人の夫と共に昨年夏に伊東市に移住した、東京大学大学院修了の文学博士でイスラム研究者でもあるシュタインマン信子氏(50)も「未定」と回答した一人です。彼女は、「単に田久保さんを降ろせばいいという問題ではありません。もちろん、説明責任を果たしていない点は弁護のしようもないですが、分断をあおるだけでは何の解決にもならない。伊東の衰退を止め、市民参加型の市政をいかにつくるかが問題の本質だと思っています」と、現状の課題認識を深掘りしました。シュタインマン氏のコメントは、伊東市が直面する人口減少や経済的衰退といった根本的な問題に対し、市民が主体的に関わる「市民参加型市政」の重要性を訴え、感情的な対立ではなく、建設的な議論と解決策を求める姿勢を浮き彫りにしています。
伊東市政の未来を問う:市民参加型への道
今回の伊東市議選は、田久保眞紀市長の失職危機という具体的な争点を持ちつつも、その背景には伊東市が抱える構造的な問題や、地方政治のあるべき姿に対する多様な市民の意識が横たわっています。選挙の結果が田久保市長の去就を決定するだけでなく、新しい伊東市議会が、市民の声をいかに市政に反映させ、停滞する伊東市の活性化と市民参加型の市政運営を実現できるかが問われています。
候補者たちの多様な意見は、伊東市民が直面している課題が、単一の解決策では対処できないほど複雑であることを示しています。この伊東市議選は、有権者が伊東の未来を真剣に考え、どのようなリーダーシップとビジョンが求められているのかを明確にする機会となるでしょう。