金価格の歴史的な高騰が続く中、その高値に目をつけ、国際的な金密輸に手を染める犯罪が後を絶たない。最近、警視庁は、女性3人に純金密輸を指示したとされる男を関税法違反の疑いで逮捕。その手口は、女性の下着に細工を施し、大量の金を隠し持つという巧妙なものだった。この事件は、金密輸犯罪が組織的かつ大胆にエスカレートしている現状を浮き彫りにしている。
下着に隠された8kgの純金:羽田空港での摘発詳細
今回逮捕されたのは、職業不詳の西村昌盛容疑者(34)と、同じく職業不詳の大坪美香容疑者(30)ら実行役の女性3人だ。彼らは2024年7月、総計8kg、時価約9871万円相当の砂状純金を香港から羽田空港へ密輸しようとした疑いが持たれている。その目的は、日本への輸入時に課される987万円の消費税の支払いを逃れることであった。
密輸の手口は周到に計画されていた。女性らはポケットが縫い付けられた特製のブラトップとショーツを着用し、8kgの砂金を33袋に分け、一人当たり11袋ずつ身につけていたという。しかし、羽田空港の税関職員は、その不自然な外見に気づき、衣服の上から確認することで密輸が発覚した。調べに対し、大坪容疑者は、実行役の女性一人あたり15万円の報酬が約束されていたと供述している。
金密輸事件で逮捕された指示役の西村昌盛容疑者、不敵な表情で警察署に入る様子
相次ぐ金密輸事件:偽「金ダル」事件との共通点
金密輸事件はこれに留まらない。本件の逮捕の直前、2024年10月10日には、大阪府警が格闘技大会の金メダルと偽って純金3.5キロを密輸入しようとしたとして、韓国籍の格闘家を含む男5人を逮捕、男女3人を書類送検している。これらの容疑者らも、金輸入にかかる消費税など約800万円の支払いを逃れ、消費税込みの価格で売却することで利益を得ることを企図していた。
こうした事件が相次ぐ背景には、金価格の歴史的な高騰がある。2020年には1gあたり7000円前後だった金価格が、2025年10月22日現在では1gあたり2万1629円と3倍以上に跳ね上がっている。この価格差が、密輸犯にとって莫大な利益を生む誘因となっているのだ。
下着に砂金を隠して金密輸を試みた佐藤綾香容疑者
犯罪ジャーナリストが語る:金密輸の「エスカレート」と「素人化」
犯罪ジャーナリストの小川泰平氏は、金密輸の現状について警鐘を鳴らす。「金の価格高騰により、彼らの犯罪はどんどんエスカレートしています。密輸件数が増えたというよりも、これまでも多数存在したが、捕まっていなかっただけ」と指摘する。
小川氏によると、以前は一度に運ぶ量を500g程度に抑え、ポケットに隠して頻繁に出入国を繰り返す手口が一般的だった。しかし、手間がかかる上に税関の目に触れる機会が多く、危険が伴うため、「一度に大量の金を運び、楽をして儲けようとする」犯罪者が増えたという。逮捕された西村容疑者らのように、8kgもの金を下着に装着するような大胆な手口は、まさにこの「楽をして儲けたい」という欲望の表れだ。
また、小川氏は、金価格の高騰が「素人」を密輸犯罪に誘い込んでいる側面も強調する。400gの金で800万円以上の価値があり、消費税分80万円が丸々利益になるため、何度か繰り返せば十分な利益が得られる。しかし、一度で莫大な利益を得ようと無理をする輩が組織的に動くようになり、結果として不自然な行動や外見から税関に発見されるケースが増えているのだ。
税関当局は現在、金密輸に対して集中的に監視を強化しており、不自然な身なりや動き、荷物などから必ず密輸を見破るとしている。税関申告をしていない金を所持していれば、現行犯で逮捕されるのは避けられない。
金密輸阻止への継続的な課題
金価格の高騰は、経済状況だけでなく、社会の犯罪動向にも大きな影響を与えている。巧妙化し、大規模化する金密輸犯罪に対抗するためには、税関の監視強化に加え、国際的な情報共有や取締りの連携が不可欠だ。今回の逮捕劇が、金密輸犯罪の減少につながることを期待したい。