文部科学省による2024年度の調査で、学校を1年に30日以上欠席して不登校とされた小中学生が過去最多の35万人を超えたことが発表されました。その数は12年連続で増加を続けており、いま、不登校はだれがなってもおかしくはないと、長年子どもたちをサポートしてきた明橋大二さんはいいます。明橋さんの著書『不登校からの回復の地図』(青春出版社)から、なぜ不登校になってしまうのか、どうしたら子どもたちは回復するのか、抜粋して紹介します。
● 心身の疲れでは説明のつかない不登校とは
不登校の状態には、大きく分けて2パターンあると、私は考えています。
ひとつは、オーバーヒート。この特徴は、疲労です。これは、心身の疲れが限度を超して、いわばオーバーヒートして、学校に行けなくなる、というものです。
2つ目に、不登校の子どもが学校に行けない理由として、疲労というよりも不安や恐怖を訴える場合も少なくありません。
オーバーヒートという考え方では、この不安や恐怖を訴える不登校をうまく説明できないと感じていました。そんなとき、この状態をとてもよく解き明かす、新たな理論に出合ったのです。
それがポリヴェーガル理論です。
ポリヴェーガル理論とは、アメリカの神経生理学者、ステファン・W・ポージェスによって、1994年に提唱された、自律神経系についての新しい理論です。
現在、これは、トラウマやPTSDの理解や治療に広く用いられ、その有用性が証明されています。一方で、この理論は不登校の理解にも役立つ、ということで、最近、不登校状態をこのポリヴェーガル理論で説明する人も増えてきました。
ポリヴェーガル理論では、人間が脅威にさらされたとき、2種類の防衛反応を取る、と言います。ちなみにこの「脅威」ということですが、何を「脅威」と感ずるかは人それぞれで異なります。
2種類の防衛反応というのは、ひとつは、「闘争/逃走反応」と言われるものです。逃げるか戦うか、という反応です。山で熊に出合ったとき、ふつうは逃げると思いますが、中には戦う人もあります。そのときに活性化するのは、交感神経系です。
心臓は激しく高鳴り、呼吸は荒くなります。逃げたり戦ったりしやすくするためです。末梢血管は収縮します。攻撃されても出血しにくくするためです。このような反応は、皆さんもよく経験して知っていると思います。
しかし脅威の中には、戦うことも逃げることもできないときがあります。このときに発動するのがもう1つの防衛反応、凍りつき反応です。
● 外に出られないのは「凍りつき反応」のせいかもしれない
ここで働くのは、背側迷走神経系です(迷走神経とは、副交感神経の一部で、延髄(えんずい)から出ている神経ですが、延髄の背中側の核から出ている迷走神経を背側迷走神経と言い、腹側〈前方〉の核から出ている迷走神経を、腹側迷走神経と言います)。
この反応が起きると、まず身体が動かなくなります。また意欲や思考力も損なわれます。そして自律神経系の反応ですから、自分の意志ではどうすることもできません。またいったんこの凍りつき反応が起きると、回復には長い時間がかかります。
動物でも大変な脅威に面したとき、「死んだふり」をして難を逃れたり、人間でも強いショックを受けると、意識を失ったり、腰が抜けたりすることはよく知られる事実でしょう。






