秋の体調不良、もしかして「肺」のサイン?漢方薬剤師が解説する乾燥と冷えの対策

秋が深まり、過ごしやすい季節となる一方で、急激な気温や湿度の変化により体調を崩す方が増加しています。この時期は、風邪やインフルエンザといった呼吸器系のトラブルが特に増えやすく、実際にインフルエンザの流行期に入っている地域も見られます。漢方の世界では、特に秋は「肺」に不調が現れやすい時期として、注意を呼びかけています。

秋の体調不良に悩む女性と漢方ケアのイメージ秋の体調不良に悩む女性と漢方ケアのイメージ

漢方における「肺」の重要な役割とは?

漢方医学の考え方において、「肺」は単なる呼吸器官以上の広範な働きを持つとされています。肺は、大気から清らかなエネルギーを取り込み、「気」と呼ばれる生命エネルギーを生成します。そして、この「気」を全身の臓器や組織に送り届けることで、体の活力を維持する重要な役割を担っています。この「気」の生成と循環の機能は、西洋医学が提唱する肺の呼吸機能、すなわち酸素を取り入れ二酸化炭素を排出する働きと密接に関連していると言えるでしょう。

さらに漢方では、肺は皮膚や鼻とも深く関連していると考えられています。具体的には、アトピー性皮膚炎、花粉症、アレルギー性鼻炎、気管支喘息といった多様なアレルギー疾患は、「アレルギーマーチ」と呼ばれるように、相互に関連しながら症状を繰り返す傾向があります。漢方医学では、これらのアレルギー症状の根本原因の一つに肺機能の低下があると捉え、肺の働きを補い、強化するケアを通じて改善を目指すことがあります。

なぜ秋は「肺」が弱りやすいのか?二大原因「乾燥」と「冷え」

秋に特に肺の機能が低下しやすいのには、主に「乾燥」と「冷え」という二つの大きな原因が挙げられます。

「乾燥」が肺に与える影響

漢方でいう肺は、体の中で最も高い位置にある水源、すなわちダムのようなものに例えられます。この肺は、建物の天井に設置されたスプリンクラーのように「水(すい)」を上から下へと散布し、全身に行き渡らせる働きを持っています。ここで言う「水」とは、リンパ液など血液以外の体液全般を指し、体の隅々を潤し、各臓器の機能を円滑に保つために不可欠な要素です。

しかし、秋の空気の乾燥が強くなると、この肺の「水を散布する作用」が十分に働かなくなり、体全体が潤いを失いやすくなります。その結果、汗が出にくくなったり、皮膚の乾燥やかゆみが顕著になったりします。また、水の下降作用が不調になると、体内の水分代謝が悪くなり、むくみや排尿困難といった症状が表れることもあります。

「冷え」が肺に与える影響

肺は乾燥に弱いだけでなく、「冷え」に対しても非常に敏感な臓器です。秋は、空気が乾燥するだけでなく、朝晩の気温差が大きく、冷え込みが強くなる季節です。このため、乾燥した冷たい空気を肺が取り込むことで、呼吸器系の症状が引き起こされやすくなります。

例えば、乾いた咳が止まらない、痰が出ても少量でなかなかスッキリしない、といった症状は、肺が乾燥し、かつ冷えの影響を受けているサインです。これらの症状は、肺が正常な機能を果たせていないことを示唆しており、特に秋の深まりとともに注意が必要です。

秋に現れる「肺」の不調サインと具体的なケア方法

繰り返しますが、肺は皮膚と密接な関係があるため、肺の機能低下は皮膚の症状として現れやすい傾向があります。秋になって皮膚の乾燥がひどくなったり、かゆみや湿疹が気になり始めた方は、まずは肺のケアに注目することが大切です。

具体的なケアとしては、体を冷やさないように温かく保ち、加湿器などを使って室内の乾燥を防ぐことが基本となります。また、梨や柿、れんこん、白きくらげなど、漢方で肺を潤すとされる食材を積極的に食事に取り入れることもおすすめです。これらの食材は、体の内側から潤いを与え、肺の機能をサポートする助けとなります。秋の不調を感じたら、早めに「肺」のサインに気づき、適切なケアを行うことで、快適な毎日を取り戻しましょう。

参考文献