国際ジャーナリストのモーリー・ロバートソン氏が、『週刊プレイボーイ』の連載「挑発的ニッポン革命計画」において、自民党の高市早苗新体制が直面する多岐にわたる課題と今後の展望を考察しています。特に、党内外の複雑な状況が絡み合い、「がんじがらめ」のスタートを切った高市氏の政治手腕と政策運営の行方には、多くの注目が集まっています。新体制の船出に際して、麻生太郎副総裁や鈴木俊一幹事長といった実力者が「両脇を固める」という報道は、盤石なサポートを意味するのか、それとも旧来の権力による牽制なのか、さまざまな解釈を生んでいます。この背景には、高市氏がこれまで「右派・保守派の星」として発信してきたメッセージと、冷徹な政治的現実との間に横たわる大きな隔たりがあります。
モーリー・ロバートソン氏が解説する高市早苗自民党新体制の課題と展望
「盤石なサポート」か「見えざる檻」か:高市新体制の船出
高市早苗氏が率いる自民党新体制の発足に際し、麻生太郎副総裁と鈴木俊一幹事長が要職に就いたことは、その政治的意味合いについて多様な見方を呼んでいます。一部では「盤石なサポート体制」と評価される一方で、元財務大臣である老練な政治家たちが「陰の権力者」として高市氏を牽制する「見えざる檻」となる可能性も指摘されています。この構図は、高市氏がこれまで掲げてきた"右派・保守派の旗手"としての強硬な発信と、実際に政策を遂行する上で避けられない政治的妥協との間で生じる根本的な矛盾を象徴しています。
先鋭化する支持層と「客観性の欠如」
近年の社会においては、アメリカの政治状況に見られるような分断が、日本の一部保守層にも顕著に現れています。先鋭的な主張をする人々が、自分たちの価値観を揺るがす反対意見に対して過敏に反応し、激しい攻撃性を示す傾向です。具体的な例としては、矛盾点を指摘された際に、「財務省の犬」や「反日」といったレトリックを用いて個人攻撃に終始する動きが散見されます。これは、2012年頃の「反原発」運動のピーク時に見られた「原発推進・広告 文化人リスト」の公開を彷彿とさせる、客観性を欠いた状況と言えるでしょう。
このような熱狂的な支持層が期待する公約が、高市政権の本格稼働後に「角を削られまくって丸められてしまう」可能性は非常に高いとモーリー氏は指摘します。自民党内のパワーバランス、公明党の連立離脱による弱体化など、多くの要因が高市氏の政策実現を阻む可能性があります。エスタブリッシュメントの価値観では「清濁併せ吞む、大人の妥協」とされる「現実路線への修正」が、原理主義化した支持者の目には「旧来型政治への迎合」としか映らない可能性があり、ここに高市氏の手法の弱点が隠されています。
理想の積極財政と「和製リズ・トラス」の懸念
高市氏の支持層から頻繁に聞かれるのは、「アベノミクスはすべてがうまくいっていた。デフレ脱却がその証拠だ」という声や、「現状の円安や実質賃金の停滞は、コロナ禍やウクライナ戦争といった外的要因に過ぎない」といった主張です。これらの見方には一部妥当性があるとしても、全体としては客観的な評価というより、安倍政権のレガシーを守るための「自己正当化の物語」と捉えるべきだと分析されます。
根本的な疑問として、アベノミクスが超円高を起点とした政策であったのに対し、現在は超円安の状況で、果たして同じ処方箋が有効なのかという点があります。今後、仮に高市首相が財政出動や減税のアクセルを踏もうとした場合、最近の金融市場の動向から、各メディアで「和製リズ・トラス」といったレッテル貼りが始まる可能性が指摘されています(英国のリズ・トラス政権は減税政策が市場に拒否され短命に終わりました)。財政規律を重視する麻生氏が目を光らせる中で、高市氏は「見えざる檻」に閉じ込められ、思うような政策を実行できなくなるかもしれません。
靖国参拝と外国人政策:現実路線への「変節」
この課題は財政・金融政策に限りません。高市氏は総裁選の直後、総理としての靖国神社への公式参拝について、事実上の見送りを早々に表明しました。この「現実路線」への転換は、見る人によっては「変節」と受け取られる可能性もあります。
これまでの動向を見る限り、高市氏は今後も支持者へのファンサービスとして「財務省悪玉論」や「外国人がもたらす危機と迷惑」といったメッセージを強く発信し続ける可能性が高いでしょう。しかし、減税も積極財政も小規模に留まり、事実上の移民もなし崩し的に増えていくといった現実が続けば、彼女の熱狂的なファン層がどこまでその支持を維持できるのかが問われます。
結論:理想と現実の狭間での政策運営
高市早苗氏の自民党新体制は、強い理想と政治的現実との狭間で、極めて困難な政策運営を迫られるでしょう。保守層からの熱烈な支持を背景に掲げた公約は、党内の力学、連立パートナーとの関係、そして国際的な経済状況といった複数の要因によって、その実現性が大きく左右されます。特に、財政政策における積極的な姿勢は「和製リズ・トラス」と揶揄されるリスクを抱え、靖国参拝のような象徴的な問題でも「現実路線」への調整を余儀なくされています。今後、高市氏が支持層へのメッセージと、実際に遂行可能な政策との間でいかにバランスを取り、日本の未来を切り拓いていくのか、その手腕が厳しく問われることになります。
参考文献
- モーリー・ロバートソン氏による『週刊プレイボーイ』連載「挑発的ニッポン革命計画」
- オリジナル記事リンク: https://news.yahoo.co.jp/articles/d24736beefc87fbc3a93fa7f87faa3360e76534f





