群馬・年の瀬記者ノート(1) 豚コレラ 知事スピード決断は合理的も 懸念される過剰不安





定例会見で豚コレラワクチン対策緊急総合支援事業について発表する山本一太群馬県知事=令和元年9月5日、同県庁(柳原一哉撮影)

 夏休み明けの9月5日。参院議員から転身し、4月の就任から半年もたっていない群馬県の山本一太知事が定例会見で発表した内容には、いささか驚かされた。 

 他県での豚コレラ(CSF)の相次ぐ発生を受け、知事は早急に対策が必要だとして、約4億3800万円に上る「緊急総合支援事業」を公表した。9月補正予算案を前に予算措置を伴う緊急発表は「寝耳に水」。しかも、議会の承認が不要な専決処分と聞き、さらに驚かされる羽目になった。

 今でこそ豚コレラは埼玉、群馬を含む関東にまで広まり緊張感は高い。しかし、記者はその時点では豚コレラを中部地方の課題と楽観視していた。むしろ、専決処分という決定に「知事の独断専行では」との疑問も頭をよぎった。

 後講釈を承知でいえば、知事が危機感もあらわにスピード決断を下したのは合理的だった。

 発表から1カ月後の10月4日、県内で実際に野生イノシシ2頭で感染が確認された。以降は感染事例が続出し、今月18日時点で14頭に上る。全国的にも終息の気配はなく、知事の判断は的を射ていた。

 これまでの県内での感染は野生イノシシにとどまり、飼育豚の感染はゼロ。養豚農家に大打撃となる殺処分も行われていない。

 9月以降、養豚場の防護柵の設置▽養豚場への消石灰配布▽消毒ポイントの設置-など、県と市町村が連携して対策を進めたことが奏功したのは明白だろう。

 知事はことあるごとに記者会見室から、豚コレラ蔓延(まんえん)防止に向けたメッセージを発し続けてきた。これらが現場の養豚農家に対し、衛生管理強化の努力を促すことになった。トップの言葉の重みはそこにあるといえる。

 しかし半面で、養豚農家や消費者に必要以上の不安をあおってきたという懸念はないか。

 知事が会見で、豚コレラとは舞台などが異なる1990年代の米映画タイトルを援用し、「今そこにある危機だ」と語気を強めた場面には違和感を覚えざるを得なかった。

 共通課題の解決を強調すればするほど、「自身への求心力を高める政治手法の一つだ」との批判も出かねないだろう。

 豚コレラ対策で先頭に立つことは知事の責務だ。飼育豚の感染という「悪夢」が現実とならないためにも、引き続き真摯(しんし)な取り組みに期待したい。(柳原一哉)

 新時代・令和に入って初めての年の瀬。新知事誕生、台風19号上陸などさまざまな出来事が起きた群馬県内の1年を、ニュースの最前線で取材する記者が振り返る。



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