米国認定「アジア最大級の多国籍犯罪組織」プリンスグループの正体とは?

東京・白金台(港区)の名所「八芳園」で3年前、カンボジアの不動産投資を謳う発表会が開催されました。一見すると海外投資セミナーに過ぎなかったそのイベントの主催者は、しかし、現在世界中の捜査機関が注目する巨大財閥「プリンス・ホールディング・グループ」(以下、プリンスグループ)だったのです。このグループは、米国当局から「アジア最大級の多国籍犯罪組織」として認定され、その真の姿が明らかになりつつあります。

発表会から逮捕へ:王昱棠容疑者の足跡

’22年12月8日に行われた八芳園での発表会では、中華系の恰幅の良い人物が熱弁を振るっていました。その男こそ、プリンスグループの関係者である王昱棠(ワン・ユータン)です。彼はこのイベントから約3年後の’25年11月4日、台湾の捜査当局によってマネーロンダリングと組織犯罪の容疑で逮捕されることになります。この逮捕は、かつて表舞台で活動していた同グループ関係者の犯罪行為が国際的に認知された象徴的な出来事となりました。

2022年12月、八芳園のイベントに登壇するプリンス・リアル・エステート・グループの王昱棠2022年12月、八芳園のイベントに登壇するプリンス・リアル・エステート・グループの王昱棠

米国・英国当局による制裁と「犯罪組織」認定

事態が急転したのは’25年10月でした。米国連邦検察局(FBI)と英国当局が、プリンスグループとその総帥である陳志(チェン・ジー)会長(38)を起訴し、米国財務省などが制裁リストに追加したのです。米英当局は10月14日の公式声明で、同グループを名指しし、「オンライン詐欺や盗難資金のロンダリングを通じて米国およびその他の同盟国の国民を標的にしている犯罪ネットワーク」として、単なる詐欺集団ではなく「アジア最大級の多国籍犯罪組織」であると断定しました。

2025年11月4日、台湾で逮捕されたプリンスグループ幹部の王昱棠2025年11月4日、台湾で逮捕されたプリンスグループ幹部の王昱棠

慈善活動の裏に隠された実態

この発表は、カンボジア経済界に大きな衝撃を与えました。プリンスグループは、複合商業施設や5つ星ホテル、さらには「プリンス銀行」や航空会社まで傘下に収め、国を代表する超優良コングロマリットとして知られていたからです。陳志会長自身も慈善活動に熱心な「若き名士」として、表社会で絶大な信用を築いていました。しかし、その輝かしい表の顔の裏で、大規模なマネーロンダリングや組織犯罪に関与していた実態が、国際的な捜査によって明るみに出た形です。

国際社会において、公的な顔を持つ巨大企業が、実は多国籍犯罪組織として活動していたという事実は、現代社会の闇の深さを示しています。プリンスグループの事例は、海外投資や国際取引におけるリスクを改めて浮き彫りにし、その動向は今後も世界各国の捜査機関や経済界から注視され続けるでしょう。