活断層が示す未来:阪神・淡路大震災の教訓と南海トラフ地震への備え

日本は「地震大国」と呼ばれ、常に地震のリスクに直面しています。過去の巨大地震から得られる教訓は、将来の災害に備える上で極めて重要です。地球科学者である尾池和夫氏の著書『活断層のリアル 京大元総長が語る入門講義』から、活断層のメカニズム、阪神・淡路大震災における専門家の警告、そして南海トラフ巨大地震の予測について掘り下げ、私たちがいかに地震と向き合うべきかを考察します。

活断層とは何か、そしてその危険性

地層が断ち切られ、ずれ動いた痕跡が「断層」です。この中でも、過去に繰り返し大地震を引き起こし、将来再び地震を起こす潜在的な力を持つ断層面が地表に現れたものを「活断層」と呼びます。大地震を引き起こした活断層が次の活動期に入るまでには、数千年という長い時間が必要とされます。そのため、歴史記録に震災が記されていない活断層のある地域では、将来の大地震への備えが特に重要となります。

日本列島には、陸上に約2000もの活断層が存在し、これらがいくつか集まって「活断層帯」を形成し、大規模な地震を引き起こすことがあります。活断層の存在を知り、そのリスクを理解することは、地震対策の第一歩と言えるでしょう。

阪神・淡路大震災は「予見されていた」

1995年1月17日午前5時46分52秒に発生した兵庫県南部地震は、その後の震災により阪神・淡路大震災と呼ばれ、死者6436人、家屋全壊10万戸という甚大な被害をもたらしました。明石海峡の地下約16キロメートルを震源とするマグニチュード7.3のこの地震は、淡路、神戸、阪神間で震度7を記録しました。

この未曾有の災害に対し、実は専門家たちはその可能性を事前に指摘していました。1974年に神戸市が大阪市立大学の笠間太郎教授らの研究者に委託した調査報告書、通称「まぼろしの報告書」とされる『神戸と地震』には、神戸市周辺の活断層の存在と、「将来、都市直下型の大地震が発生する可能性はあり、その時には断層付近で亀裂・変位がおこり、壊滅的な被害を受けることは間違いない」と明記されていました。同年6月には神戸新聞も一面トップで「神戸にも直下地震の恐れ」と報じています。しかし、この報告書は神戸市長の判断により市民に公表されることはありませんでした。他にも、『神戸地域の地質』(地質調査所)など、複数の調査が神戸市周辺での大地震の可能性と壊滅的な被害のリスクを指摘していました。

地震によって地表に現れた活断層の様子地震によって地表に現れた活断層の様子

地震活動期が示唆する南海トラフ巨大地震の時期

堀高峰氏(国立研究開発法人海洋研究開発機構海域地震火山部門 地震津波予測研究開発センター長)と尾池和夫氏は、1994年に西日本内陸活断層帯の地震活動特性を分析した論文を発表しました。この研究では、南海トラフ巨大地震の発生に先立って、その前段階として地震活動期がみられることを指摘しています。

毎日放送は1995年春にこの内容を総合的に放送する計画をしていましたが、大地震が先に発生したため、その放送は実現しませんでした。しかし、この準備があったおかげで、毎日放送は本震発生直後に活断層帯の空撮を迅速に実施でき、その映像が全国に活断層の存在を広く知らしめるきっかけとなりました。本震発生直後、地震予知連絡会の茂木清夫会長が「西日本は地震活動期に入ったと思われる」と発表し、この「地震活動期」という概念が広く定着することになります。

尾池氏らの分析によると、西南日本内陸の地震活動期は約60年間続き、その終盤で南海トラフの巨大地震が発生するとされています。もし1995年から活動期が始まったと仮定すると、次の南海トラフ巨大地震は2040年頃に発生する可能性が考えられます。さらに、現在の実際の地震活動データに統計モデルを当てはめて計算すると、巨大地震の時期は「2038年」という具体的な数字が導き出されています。

科学的知見に基づいた備えの重要性

活断層の研究や地震活動期の分析は、将来起こりうる巨大地震のリスクを理解し、適切な対策を講じる上で不可欠な情報を提供します。阪神・淡路大震災の教訓が示すように、専門家の警告に耳を傾け、科学的知見を社会全体で共有し、防災意識を高めることが、私たち一人ひとりの命と財産を守るために極めて重要です。南海トラフ巨大地震が予測される中、今こそ、科学的データに基づいた着実な備えを進める時です。