高市首相発言と日中関係の経済的影響:私たちの暮らしはどう変わる?

高市早苗首相の「台湾有事が日本にとって存立危機事態になり得る」との国会での発言以来、日中関係は緊迫の度を増しています。中国政府はこれに強く反発し、日本産水産物の輸入停止、日本への渡航自粛要請、日本人アーティストの公演中止といった経済・文化両面での対抗措置を相次いで打ち出しました。この「日中外交危機」は、外交ニュースの範疇に留まらず、私たちの身近な物価や生活にも具体的な影響を及ぼし始めています。本稿では、政治ジャーナリストや経済部デスクの分析に基づき、観光地、不動産、海産物・食品の3つの主要な側面から、この状況が私たちの暮らしにどのような変化をもたらしているのかを詳細に掘り下げます。

日中関係悪化がもたらす暮らしへの影響

観光地での変化:価格適正化と新たな客層

中国からの渡航制限や団体旅行のキャンセルは、日本各地の観光地で既に顕著な影響を及ぼしています。特に京都では、宿泊施設が空室を抱える状況となり、国内客を呼び込むために宿泊費を抑える動きが見られます。東京・築地の海鮮丼や寿司店でも、これまでの外国人観光客に依存した売上が減少し、地元客向けの値下げやセットメニューの強化に舵を切る店舗が目立ち始めました。

北海道・小樽や沖縄のリゾート地でも同様に、団体旅行のキャンセルが外食費や宿泊費の値下げを促し、「旅先でお得に宿泊・食事できる」状況が生まれています。これまで中国人観光客や投資家を相手に、相場以上の価格設定をする「ぼったくり商売」も少なくなかった観光業界では、客層が国内中心に戻ることで価格が適正化される側面も指摘されています。ただし、料金面での恩恵がある一方で、アメリカ、韓国、台湾などからの観光客は急増しており、「オーバーツーリズムが解消された」とまでは言えない状況が続いています。

国会での発言後、中国から反発を受けている高市早苗首相国会での発言後、中国から反発を受けている高市早苗首相

不動産市場の動向:中国富裕層と国際投資

不動産市場においても「価格調整」の動きが見られますが、「中国人富裕層の”爆買い”が止まれば港区のマンションは暴落する」といった極端な見方は現実とは異なります。ジャーナリストの北上行夫氏が指摘するように、「中国人」を一括りにして捉えるべきではありません。例えば、都心の高級マンション群「晴海フラッグ」の購入者の約6割は、「日本に長く生活し、納税している在日中国系の住民」とされており、中国本土の富裕層が投資目的で買い進めたケースばかりではないと説明されています。

近年では、中国籍を離れてオーストラリア、ニュージーランド、アメリカ、イギリスなどのパスポートを取得する富裕層も増加しており、彼らは日中関係が悪化してもこれまで通り日本の不動産を購入し続けることが可能です。不動産価格が大きく変動する可能性があるのは、中国当局が中国籍の不動産所有者に対して「海外資産への本格課税」を強化した場合です。中国政府が「中国で稼いだ資金で購入した海外不動産は国の利益であり、課税強化は当然」との姿勢を打ち出せば、中国籍の投資家らが一斉に売却に動く可能性があります。その場合、中古マンションが3分の2、タワーマンションでは半値近くに下がることも予測されています。しかし、たとえ価格が下落したとしても、日本人にとって「買いやすい価格」になるかは別の問題です。これまで中国人向けに高値が設定されていた物件は、適正価格に戻れば欧米の投資家や海外パスポートを持つ中国出身の富裕層が新たに買い支えるため、国際的にも「お買い得物件」となる可能性が高いとされています。

海産物・食品への影響:販路開拓と価格安定

2023年以来、中国は日本産水産物の輸入を2年ぶりに停止しました。しかし、前回の輸入停止以降、アメリカや東南アジア向けへの販路開拓が進んだことから、「今回の影響は限定的」との見方が強まっています。特にホタテやサケなどは、これまで中国の需要が価格を押し上げていた側面があり、今後はその上乗せ分が解消され、適正価格に近づくと予想されます。

国内向けの海産物の価格は、比較的安定する傾向にあるでしょう。食品全体で見ると、「中国産商品が店頭から姿を消したこと」に気づく程度の変化に留まると分析されています。飲食店の食材輸入ルートは多角化しており、メニューの値上げも抑えられているため、食品価格は全般的に安定していると言えるでしょう。

まとめ

高市首相の台湾に関する発言に端を発した日中関係の緊迫化は、日本経済、特に観光業、不動産市場、食品供給に具体的な影響を与え始めています。観光地では宿泊費や外食費の適正化が進む一方で、外国人観光客全体の増加によりオーバーツーリズムは解消されていません。不動産市場では、中国籍富裕層による「爆買い」の影響は複雑であり、真の価格変動は中国の海外資産課税政策に左右される見通しです。海産物・食品に関しては、販路の多角化により中国の輸入停止の影響は限定的であり、価格の安定化が期待されます。これらの変化は、私たちが日々の生活の中で経済ニュースをより身近に感じ、国際情勢と国内経済の結びつきを意識するきっかけとなるでしょう。

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