高市早苗首相の政権運営が本格化する中、首相補佐官である遠藤敬氏への異例なまでの信頼が永田町で注目を集めている。11月11日、日本維新の会の藤田文武共同代表から総合経済対策に関する提言書を受け取った際、高市首相が遠藤氏を「コイツ」と指し、「私の言葉だと思って聞いて。各役所は調整するように」と述べたことは、官邸官僚らを驚かせた。かねてより「遠ちゃん」と高市首相に頼られる存在だった遠藤氏も、「総理の言葉って、言い過ぎちゃいまっか。補佐官のノリを超えてますわ」と応じる一幕があった。この一見すると砕けたやり取りの背後には、高市政権が直面する重要課題と、その独特な政治スタイルが垣間見える。
高市首相と遠藤補佐官、異例の信頼関係
高市首相が遠藤補佐官を公の場で「コイツ」と呼んだことは、その信頼の深さを物語っている。永田町では「ぼっち」として知られ、仲間との会食を好まないとされる高市氏が、他党の幹部である遠藤氏には心を許し、政権運営の要として絶大な信頼を寄せていることが明らかになった。官房長官や副長官、官邸官僚らが驚きの表情で遠藤氏に目を向けたのも当然のことで、これは高市氏の政治手法における独特な側面を浮き彫りにしている。遠藤氏自身も、首相の「言い過ぎ」を指摘しつつも、その重責を認識している様子がうかがえる。
高市首相(左)に「コイツ」と呼ばれ、首相官邸で提言書を受け取る日本維新の会の藤田文武共同代表(右)と並ぶ遠藤敬首相補佐官(左から2番目)
成立した18.3兆円の補正予算案と物価高対策
遠藤補佐官がかねてから主張していた物価高対策は、コロナ禍後で最大となる18.3兆円の補正予算案に盛り込まれ、12月16日午後の参院本会議で成立した。この対策には、電気・ガス代に対する3ヵ月で7300円の補助が含まれており、物価高に苦しむ国民生活への配慮が示された。経済対策の詳細は、この「高市-遠藤ライン」を基軸に詰められ、成長投資なども含めた大規模な経済政策が実行に移されることとなった。国民民主党や公明党の政策も取り入れられたことで、与野党の協力を得ることに成功し、補正予算案はスムーズな成立を見た。
衆議院定数削減法案の行方と連立政権の課題
補正予算とは対照的に、連立政権の焦点の一つであった「衆議院の定数1割削減法案」は、与野党間の交渉が難航し、今国会での成立が見送られることとなった。日本維新の会の吉村洋文代表は、議員定数削減を「改革のセンターピン」とし、高市政権発足時の連立の「絶対条件」として掲げていた。しかし、自民党内には当初から削減案に対する疑問の声があり、幹部も表向きは「最大限の努力」を繰り返すものの、党内の反対派を本気で説得する姿勢は見られなかったという。
最終的に、萩生田光一幹事長代行らの働きかけにより、「1年以内に結論が出なければ『小選挙区25、比例代表20』を自動的に削減する」条項が盛り込まれた法案が自民・維新の共同で提出された。これは維新の顔を立てる形となったものの、「乱暴すぎる」と野党は反発。野党の協力なしには来年の国会での審議入り、ひいては成立も困難な状況にある。削減対象となる選挙区の詳細は未定であり、該当支部長からの反発も予想される。
高市政権が直面する財源と世論の溝
臨時国会は高支持率を背景に乗り切った高市政権だが、来年の通常国会では政策の安定財源確保が喫緊の課題となる。防衛費のGDP比2%への引き上げに伴い、法人税、たばこ税、所得税の段階的引き上げが決定されたが、これに対する反発も予想される。また、補正予算で11.7兆円の赤字国債を発行し、プライマリーバランス黒字化の単年度目標を撤回したことは、海外投資家からの警戒を招きかねない。財政拡張路線による円安進行、物価高、長期金利上昇による住宅ローン金利の上昇は、国民の手取りが増えない中で生活を圧迫しており、世間とのズレが生じている可能性も指摘されている。
高市首相は、赤坂宿舎に籠って政策資料に目を通す日々を送り、総理就任以来、夜の会食は麻生太郎副総裁や鈴木俊一幹事長らと一度きりだという。胸襟を開き、「遠ちゃん」「コイツ」と呼べる相手が他党の幹部である遠藤氏だけという状況は、自民党内部に信頼できる仲間が少ないという見方もできる。遠藤氏自身も、永田町・霞が関の情報ばかりでは世間の雰囲気が分からなくなるとの理由で、官邸内の執務室にほとんど立ち寄らない。高支持率に支えられながらも、高市政権は財源、世論、そして党内外の連携といった多岐にわたる課題に直面しており、その手腕が今後さらに問われることになるだろう。





