飼っている動物が病気になったら、動物病院に連れていきますよね。動物病院には外科、内科、眼科など、さまざまな専門領域の獣医師がいますが、獣医病理医という獣医師がいることを知っていますか?
この記事では、獣医病理医の中村進一氏がこれまでさまざまな動物の病気や死と向き合ってきた中で、印象的だったエピソードをご紹介します。
■年末年始に増えるペットの急死
年末年始、ペットの急死が激増します。
例年、この時期に僕が病理解剖するペットの遺体の数は、ほかの時期の2倍に跳ね上がります。正月休み中に、2頭、3頭……と、立て続けに遺体が運ばれてくることも珍しくありません。
寒さで体調を崩して、というわけではありません。忘年会、クリスマス、帰省、大みそか、お正月……そんな行事に伴い、飼い主さんとペットの生活リズムや環境が大きく変わり、結果、悲しい死亡事故が起きるのです。
大半の悲劇は、飼い主さんがほんの少し気をつけているだけで避けられます。去年に引き続き【関連記事:「クリパの翌日に」死んだ愛猫の腸内にあった異物】、具体的な事例を紹介しますので、ペットを飼っている方はぜひ読んでいただければと思います。
三が日を過ぎて間もない日、動物病院から6歳のオスのチワワの病理解剖の依頼がありました。散歩後に急に苦しみだし、瀕死の状態で来院したものの、そのまま亡くなったとのことでした。
まだそれほどの年齢でもなく、これまで大きな病気もしなかったチワワです。動物病院の獣医師は「散歩中に何かを拾い食いし、中毒を起こしたのではないか」と疑っていました。
飼い主さんは突然の悲劇に動揺しながら、「とにかく、正確な死因を知りたい」と強く望まれたそうです。
正月休み中ではありましたが、病理解剖に暦は関係ありません。時間が経つと遺体の組織は変性し、死因の特定が難しくなるからです。家族には申し訳ないところですが、解剖室に向かい、遺体を受け取ってすぐに解剖を始めました。
■死因は中毒ではなかった
解剖を進めていくとすぐに、胃が大きく膨らんでいることに気付きました。胃拡張です。また、胃の内容物が逆流して、気管に入り込んでいることもわかりました。
気管は入り込んだ異物で塞がっていて、それによって窒息を起こしていたようでした。その後、組織などを詳しく検査した結果、死因は窒息死であり、中毒死ではなかったと正式に診断しました。






