豊島区1200万円窃盗事件、指示役3名を逮捕:「闇バイト強盗」とは異なる「タタキ」の手口か

今年4月、東京・豊島区で発生した1200万円窃盗事件において、警視庁捜査3課は12月9日までに、事件の指示役とされる男ら3名を新たに逮捕しました。金融商品を扱うトレーダーの男性宅から多額の現金が盗まれたこの事件は、逮捕された実行役4名に続くもので、犯罪組織の複雑な構造が浮き彫りになっています。今回の逮捕劇は、近年増加する「闇バイト強盗」とは一線を画す、裏社会特有の「タタキ」と呼ばれる手口の可能性も指摘されており、世間の注目を集めています。

事件の概要と新たな逮捕者

事件は今年4月2日午後5時頃に発生しました。東京・豊島区の50代男性宅に何者かがはしごを使い2階の窓を破って侵入し、現金1200万円を盗み出しました。被害男性宅には前日までに複数人から預かった現金が十数個の封筒に入れられ保管されており、事件発生時、男性は留守でした。
これまでに、この事件の実行役とリクルーター役の男ら4名が逮捕・起訴されていましたが、その後の捜査で新たな指示役とされる人物の名前が浮上しました。今回逮捕されたのは、住所不定・無職の新原孝路容疑者(45)、鹿児島市の職業不詳・松下光生容疑者(67)、そして同エステ従業員・千葉愛弥容疑者(34)の3名です。新原容疑者と松下容疑者が指示役、千葉容疑者が盗んだ現金の回収役であったとみられています。新原容疑者らは、被害男性宅に多額の現金があることを事前に把握していたと考えられています。また、実行役を含め、事件に関与した7名はいずれも鹿児島市出身であることから、警察は関連性を詳しく調べています。
取り調べに対し、新原容疑者と千葉容疑者は容疑を否認しており、松下容疑者は黙秘を続けています。この事件の背景には、単なる窃盗では終わらない、より組織的な犯行の影が見え隠れします。

東京・豊島区1200万円窃盗事件の指示役とされる新原容疑者(右)と松下容疑者東京・豊島区1200万円窃盗事件の指示役とされる新原容疑者(右)と松下容疑者

「闇バイト強盗」と一線を画す「タタキ」の手口

一連の逮捕劇が明らかにするのは、単なる「闇バイト強盗」では片付けられない、複雑な犯罪形態です。ジャーナリストの石原行雄氏は、この事件が「闇バイト強盗」とは異なる、裏社会で本来的に使われる「タタキ」と呼ばれる手法に近いと分析しています。
石原氏によると、近年の「ルフィグループ」事件以降、「タタキ」という言葉は闇バイト強盗全般を指すようになりましたが、本来の裏社会での意味合いは異なります。本来の「タタキ」とは、裏社会の人間が同じく裏社会の人間を標的にし、金品を奪う犯罪を指します。被害者が警察に届け出にくいという点が特徴の一つです。
さらに、「タタキ」にはもう一つの大きな特徴があります。それは、いつ、どこに、いくらくらいのまとまった現金が入るかという情報を事前に確実に入手してから行動を起こす点です。例えば、特殊詐欺のアジトにスパイを送り込み、金の動きに関する情報を得てから犯行に及ぶケースなどが挙げられます。

過去の「タタキ」とみられる事例

石原氏は、「タタキ」の具体例としていくつかの事件を挙げています。
一つは、2022年12月に渋谷区の27階建てタワーマンション高層階で発生した窃盗事件です。この事件では、男性宅から高級腕時計8点(時価1億8000万円相当)が盗まれました。住所不定・無職の45歳の男が「ウォーリー」と名乗り、30代から60代の男5名の実行役や見張り役に指示を出し、2023年10月までに全員が逮捕されています。
もう一つは、2023年7月に大阪府浪速区の46階建てタワーマンションのラウンジで起きた強盗致傷事件です。自営業の男性(当時62歳)が住人の男と暗号資産の取引中に、侵入してきた男に催涙スプレーをかけられ、現金7000万円を奪われました。大阪府警は2024年3月に指示役とみられる住所不定・無職の男(当時24歳)ら6名を逮捕しており、実行犯5名(取引相手の住人含む)は前年中に逮捕されています。

事件の背景と捜査の見立て

今回の豊島区の事件では、被害男性が裏社会の人間であるとは断定されていませんが、事件発生時に男性の手元に多額の現金があるという情報を、指示役または被害者に近しい人物が事前に入手し、ターゲットを絞って犯行に及んだ可能性が高いと石原氏は指摘します。
リクルーターを使い人を集めたのは、単に人手不足を補うためや、指示役自身が表に出ることで早期に身元が特定されるのを避けるための「ワンクッション」としての役割が大きいと考えられます。闇雲に人を集めて襲う従来の「闇バイト」型犯罪とは異なる、より計画的かつ情報に基づいた犯行であるとの見方が強まっています。
また、警視庁が組織犯罪対策部(組対)ではなく捜査3課が動いている点も、この事件の性質を示唆しています。これは、背後に巨大な暴力団組織が存在するのではなく、今回逮捕された指示役がトップに立つ比較的小規模な犯罪グループによる窃盗事件であるという、捜査当局のある程度の見立てができているからではないか、と石原氏は分析しています。

このように、同じ「金が奪われる」という犯罪であっても、その手口や背景には多様なスタイルが存在します。豊島区で発生した1200万円窃盗事件は、指示役から実行役、回収役に至るまでの役割分担が明確であり、事前の情報収集を基にした計画性の高い犯行であったことが明らかになりました。これは、社会問題化している「闇バイト強盗」とは異なる、裏社会に根差した「タタキ」という犯罪の一形態を示唆しており、今後の捜査の進展が注目されます。