ジャーナリスト青木理氏の新著『闇の奥』(河出書房新社)が、現代社会におけるニュースの加速とそれに伴う「忘却」の問題に鋭く切り込んでいます。様々な媒体に寄稿されたルポやコラムをまとめた本書は、情報の消費速度が飛躍的に増大し、過去の重要な出来事が急速に忘れ去られがちな現代において、記憶を喚起し、深く考察することの重要性を改めて問いかけています。青木氏自身も、収録原稿をまとめる中で忘れかけていた記憶を呼び覚まされ、その作業の必要性を痛感したと語っています。
ジャーナリスト青木理氏
加速するニュースサイクルと「忘却の速度」
かつては月刊誌などが主な情報源であり、月単位で物事を深く考えるのが一般的でしたが、現在はその多くが姿を消し、ネット上では刹那的な情報がニュースとして消費される状況です。これにより、ニュースの回転が早まるだけでなく、その「忘却の速度」も加速していると青木氏は指摘します。彼は、自身の著書を通じて、一人でも多くの読者に忘れ去られるべきではない事柄の記憶を喚起し、共有すべき問題意識を提示したいと強く願っています。この視点は、情報過多の時代に生きる私たちにとって、何が真に重要であるかを見極めるための貴重な手がかりとなるでしょう。
青木理氏のメディア批評と活動の幅
『闇の奥』には、現代メディアに対する青木氏の批判も多数含まれています。活字媒体からテレビ、ラジオ、さらには一部のネット番組にも出演する「オールラウンド」な活動を展開する彼ですが、SNSには一切関わらず、ユーチューブ番組も限られたもののみと、自身の主軸はあくまで執筆業に置いています。特にテレビ活動については、来年還暦を迎えることもあり、本業であるルポ執筆に集中するため、そろそろ「お役御免」と考えているとのことです。この発言は、情報発信の場が多様化する中で、ジャーナリストとしての自身の役割と、伝えるべき内容への深いコミットメントを示唆しています。
「3.11」の深層に迫る新たな長編ルポ
青木氏は、年明けには書き下ろしの長編ルポを刊行する予定です。これは彼が10年近く取材を重ねてきた、思い入れの深いテーマであり、東日本大震災と福島第一原発事故後、飯舘村で自死に追い込まれた102歳の古老とその家族の運命を追った物語です。フリーランスとして初めての大災害であった3.11に対し、一介の物書きとして何ができるか苦悩しつつ、被災地に通い続ける中で知った古老の自死。その真相を探る過程で、戦前・戦中を含む日本の「国策」や時代の歪みが浮き彫りになってきたと語ります。青木氏にとってこの作品は、日本の近現代史を俯瞰しつつ3.11について初めて本格的にまとめた、ジャーナリスト人生における重要な節目となる作品です。
結論
青木理氏の活動は、現代社会の情報の表層的な流れに抗い、忘れられがちな深層へと光を当てるものです。彼の新著『闇の奥』、そして刊行が待たれる3.11に関する長編ルポは、私たちに「忘却」の危険性を訴え、歴史と向き合い、現代の課題を深く考察する機会を提供します。情報の真贋が問われる時代において、青木氏のようなジャーナリストの存在は、社会の健全な発展のために不可欠であると言えるでしょう。
参考文献:
- Yahoo!ニュース: ニュースの回転も忘却も加速している




