2025年11月21日、高市早苗首相が掲げる「強い経済」と「責任ある積極財政」を指針とした総合経済対策が閣議決定されました。新型コロナウイルス禍後で最大規模となる2025年度補正予算は、翌2026年度予算が過去最高の122兆円台となる見込みであり、日本の財政運営に大きな影響を与えることが予想されます。本記事では、この大規模な経済対策の具体的な内容、財源、そして高市首相が提唱する「責任ある積極財政」の真意と課題を深掘りします。
過去最大規模の2025年度補正予算とその財源
2025年度補正予算の一般会計歳出総額は18兆3034億円に上り、その内訳は多岐にわたります。生活の安全保障・物価高騰対策に8兆9041億円、危機管理投資・成長投資による強い経済の実現に6兆4330億円、防衛力と外交力の強化に1兆6560億円がそれぞれ計上されました。さらに、災害やクマ被害の拡大に備えるための予備費として7098億円が確保されています。
この大規模な補正予算の財源としては、2025年度の税収上振れ分2兆8790億円と、2024年度の決算剰余金2兆7129億円が充当されます。しかし、それでも不足する11兆6960億円は新規国債の発行によって賄われることになり、補正予算の歳出総額の実に63.9%を新規国債が占めることになります。注目すべきは、2025年度の税収見込みが80兆6980億円となり、税収が初めて80兆円台に達し、6年連続で過去最高を更新する見通しである点です。ただし、この「税収の上振れ」は、当初見積もりを上回ったに過ぎず、当初予算の一般会計歳出額115兆1978億円を大きく下回っているため、依然として税収不足である現状に変わりはありません。この税収上振れは「数字のマジック」に過ぎないという指摘もされており、その実態には留意が必要です。
経済政策について説明する高市早苗首相
「責任ある積極財政」が担う二つの責任
高市首相が掲げる「責任ある積極財政」とは、単に国債を発行して歳出規模を拡大する量的な政策に留まらず、「財政が経済成長を牽引する責任」と「市場の信認を維持し財政を持続させる責任」という二つの責任を両立させる経済・財政運営方針とされています。具体的には、小泉純一郎内閣の下で掲げられた「プライマリーバランスの黒字化」という財政再建目標を一時的に脇に置き、「財政規律よりも財政出動で経済を回復させることを優先する『経済あっての財政』」という考え方に立脚しています。これは本来、「国家は市場経済に寄生する存在であり、国家が経済の重荷にならないよう財政は極力小さくすべき」という考え方であったものが、現代日本では真逆の意味で用いられているという側面があります。
故安倍晋三元首相が推進した「アベノミクス」がデフレ・円高下での「金融緩和」に主眼を置いていたのに対し、高市首相の「サナエノミクス」は、インフレ・円安下で「財政出動」と「戦略的投資」、いわゆるワイズ・スペンディング(賢い支出)に重点を置いているのが特徴です。「財政が経済成長を牽引する責任」とは、短期的には、ガソリン税・軽油引取税の暫定税率廃止、電気・ガス料金支援、診療報酬・介護報酬の引き上げ、中小企業・農林水産業支援といった物価高対策で家計を下支えすることを目指します。中長期的には、経済安全保障、食料・エネルギー・健康医療安全保障、国土強靭化、AI・半導体・量子・バイオといった先端技術分野への官民連携投資を通じた危機管理投資と成長投資により、所得を増やし、消費を活性化させ、企業収益を向上させることを目標としています。その結果、税率引き上げなしでも税収が増える自然税収増を実現しつつ経済成長も実現するという好循環を目指していると考えられます。ただし、この「税の自然増収」が国内総生産(GDP)比で見ても上昇するのであれば、所得の増加以上に税負担が増えることになり、単に増税を言い換えたに過ぎないという批判も存在します。
結論
高市早苗首相が掲げる大規模な総合経済対策と「責任ある積極財政」は、日本経済の立て直しと成長を強く意識した政策です。しかし、2025年度補正予算の財源の過半を新規国債発行に依存する状況や、「税収上振れ」の「数字のマジック」という指摘は、財政の持続可能性に対する懸念を残します。また、「責任ある積極財政」における「財政が経済成長を牽引する責任」の実現には、短期的な物価高対策だけでなく、中長期的な戦略的投資が実質的な経済成長と持続的な税収増に繋がるかどうかが鍵となります。その効果が所得増加を上回る税負担とならないよう、今後の政策運営とその結果が注視されます。





