著名な演劇人であり、日本のアングラ演劇を牽引してきた演出家・佐藤信氏(82)が、東京・杉並区の劇場「座・高円寺」で予定されていた舞台「ジョルジュ」の演出を突如降板したことが明らかになり、演劇界に波紋を広げています。この降板は、彼が過去に同劇場の芸術監督を務めていた際に発生したパワーハラスメント(パワハラ)疑惑に起因するものとされています。
佐藤信氏の功績と「ジョルジュ」公演
佐藤信氏は、高度経済成長期の1960年代に脚光を浴びたアングラ演劇の旗手の一人であり、「劇団黒テント」を率いて日本の演劇史に大きな足跡を残してきました。唐十郎氏、寺山修司氏、鈴木忠志氏といった演劇界の巨匠たちと共に、実験的で革新的な舞台芸術を追求し、多くの演劇ファンを魅了してきました。
彼が演出を手がける予定だった舞台「ジョルジュ」は、作曲家ショパンと作家ジョルジュ・サンドの友情を描く作品で、女優の竹下景子氏(72)が平成20年(2008年)から主演を務める人気公演です。毎年この時期に「座・高円寺1」で上演され、遠方から足を運ぶファンも多いことで知られていました。今年の公演は12月19日開幕が予定されていましたが、開幕直前の12月3日、劇場側から佐藤氏の降板が発表されました。
演劇界に大きな影響を与えてきた演出家・佐藤信氏
パワハラ疑惑の詳細と区の対応
佐藤氏の降板は、彼が座・高円寺の初代芸術監督(平成21年~一昨年)を務めていた期間に職員に対して行ったとされるパワハラ行為が原因です。一昨年6月頃、劇場職員から「社会通念上許容される範囲を逸脱する不適切な発言があった」との公益通報が杉並区のコンプライアンス担当部署に寄せられました。
杉並区の聞き取り調査に対し、佐藤氏は発言があったことを認め、「職員が受けた苦痛を一定程度は理解する」と述べたものの、パワハラであるとの認識はなかったようです。彼は「あくまで職員の成長を願って指導の一環として行ったものであり、決して人格を傷つける意図はなかった」と弁明しました。しかし、杉並区は彼の発言を「職員の人格を攻撃し職場における孤立や萎縮を招く」「人格を否定し尊厳を著しく侵害するもの」と判断。11月20日付で、佐藤氏を匿名「A」として公表し、騒動を明らかにしました。
この結果、佐藤氏は杉並区の文化行政を担当する顧問の職も辞任することになりました。長年にわたり日本の演劇界を牽引し、多くの人々に影響を与えてきた佐藤信氏の降板劇は、演劇界におけるハラスメント問題の認識と対応の重要性を改めて浮き彫にするものとなっています。





