画像診断やチャットbotを用いた健康増進のアドバイスなど、医療業界ではさまざまなAI活用が進んでいる。人の命や健康に関わる領域では、データの取り扱いも慎重にならねばならない。国内外の事例や、業界が抱える課題などを整理した。
医療系AIの市場は拡大傾向
医療系AIの市場規模はどうなっているのか。調査会社の米Global Market Insightsは2月に発表したレポートで、「グローバルでは、2018年度は13億ドル程度だったが、25年度には130億ドル以上にまで成長する」と予測している。
現在は市場の大半(約6.5億ドル)が北米地域によって占められているものの、今後は中国を中心にアジア太平洋地域の市場が成長するという。
米CB Insightsが11月に発表したレポートでは、医療系AIスタートアップの資金調達の状況が四半期ごとにまとめられている。それによると近年、資金調達金額と件数はそれぞれ上昇傾向にある。
医療系AIの市場は拡大する見込みで、それを狙って新たな製品・サービスを開発しようとする動きも活性化しているといえる。
利用できるデータの拡大は、こうした動きを後押しするものだ。医療系のデータは個人情報などの問題があり、収集や活用が難しいという問題がある。しかし近年、いわゆる「医療ビッグデータ」が生む価値に注目が集まり、各種データベースの整備や関連する法制度の改正といった環境面での整備が進んでいる。
IoTやウェアラブル技術の進歩で、従来では収集が難しかったデータを集めやすくなったり、そうしたデータ収集の頻度が上がったりしている。
例えば米元Google幹部も参加している米スタートアップのAliveCorは、指2本を載せられるサイズの板状センサーを開発・提供している。心臓疾患などを抱える人々がこのセンサーを胸に当てると、取得した心電図のデータをiPhone上に送信し、記録・管理できる。これまで心電図を取るには病院に出向き、体に電極を付けて測定しなければならなかったが、これなら自宅で手軽かつ頻繁に計測できる。
当然ながら得られたデータはAliveCorのデータベースに集められ、大量の情報が蓄積されることになる。こうしたデバイスがさまざまな企業から提供されれば、各種のバイタルサインや血糖値、睡眠状態などといったデータが集められ、AIに活用できるようになるだろう。
それでは現在、医療系AIでどのような取り組みが生まれているか、簡単に整理してみたい。
ここでは医療を治療行為だけに限定するのではなく、その前後の活動も視野に入れ、(1)予防・予測、(2)診断・治療、(3)アフターケア--という3つのステップに分けてみたい。
また患者個人に対しての行為だけでなく、大規模な感染症の流行予測といった、大勢の人を対象としたマクロレベルの活動も考えられることから、それぞれのステップにおいてミクロ・マクロという分類を行ってみたい。