【主張】イランが報復攻撃 最悪の事態回避に全力を


 米国によるイラン革命防衛隊の精鋭「コッズ部隊」のソレイマニ司令官の殺害を受け、イランがイラクの米軍駐留基地をミサイル攻撃した。

 予告していた「報復」である。中西部アサド空軍基地と北部アルビルの基地の2拠点に弾道ミサイルが撃ち込まれた。

 米国とイランの対立は、本格戦争に突入するかどうか岐路に差し掛かった。

 最悪の事態は何としても回避せねばならない。

 米軍は言うまでもなく「世界最強」である。だが、イランはレバノンやシリアなどにシーア派武装組織を抱え、ゲリラ戦を仕掛けることができる。戦火が中東全域に広がりかねない。

 シリアでは周辺国や民族が複雑にからみあって内戦が継続し、難民が止まらない。イスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」(IS)の復活も警戒が必要だ。イラクではすでに反米感情が表面化した。中東は混乱の極みにある。

 地域への浸透を図るロシアと中国の動きも気がかりだ。ロシアはシリア内戦に介入して影響力を強めた。昨年暮れ、中露はイランと合同軍事演習を実施した。米国が戦火で疲弊し、国民が湾岸地域への関与に忌避感を強めれば、中露は喜ぶに違いない。

 中東は、原油や天然ガスの供給地であり、日本は8~9割を依存する。戦乱は世界経済への大打撃だ。本格戦争となった場合、痛手は余りに大きい。

 日本をはじめ関係各国は、憎み合う米国とイランに自制を求めるだけでなく、イランを取り巻く重要課題に積極的に取り組み、両国の理解を求めるべきだ。

 一つは、核合意が有名無実化したイランの核問題である。イランはひそかに核開発を進め反体制派の指摘で表面化した。ここで生じた疑念を払拭し得る取り決めが将来的には必要だ。

 米国がソレイマニ司令官殺害で提起したのは、司令官の指揮下、イランが支援する各地のシーア派武装組織の脅威である。北大西洋条約機構(NATO)もこの点で、今回の米戦略を支持した。

 残念なのは、米政府の説明不足である。「(殺害で)世界が安全になった」(ポンペオ国務長官)では言葉不足だ。国連などを通じ、国際社会を説得しようという姿勢を欠く。肝心なのは、言葉でその正当性を示すことだ。



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