ロシア・ウクライナ戦争:専門家分析「国民性の違い」と戦場の現実

ロシアによるウクライナ侵攻から3年あまりが経過しました。アメリカのトランプ前大統領が停戦調停に乗り出し、両国代表団による3年ぶりの直接交渉も行われましたが、合意には至らず、物別れに終わっています。この戦争に終結の兆しは見えず、長期化の様相を呈しています。

ロシア、ウクライナ情勢に詳しい筑波大学の東野篤子教授と東京大学の小泉悠准教授は、この戦争を通じて両国の国民性の違いが鮮明になったと指摘します。また、ロシアが戦争を継続できる背景にある社会構造や、戦場の知られざる現実についても分析しています。

2025年5月9日、対独戦勝記念軍事パレードに参加した習近平中国国家主席と並ぶプーチン大統領2025年5月9日、対独戦勝記念軍事パレードに参加した習近平中国国家主席と並ぶプーチン大統領

専門家が見抜いた「国民性の違い」

小泉准教授は、今回の戦争でロシアとウクライナの「国民性の違い」が際立ったと感じていると言います。東野教授はそれを「“諦めるロシア人”と“諦めないウクライナ人”」と表現します。

東野教授によれば、ロシア人はプーチン大統領が戦争を始めたことに対し、「仕方がない」と抵抗せず、戦時経済に適応している傾向が見られるそうです。これはロシア人の「諦めの良さ」の表れであり、小泉准教授は、一度諦めるとどんな困難な状況にも耐えられるのがロシアの強さだと分析します。ロシア人は現実を受け入れ、その中で生き抜く方法を見つけるリアリストだと言えるでしょう。

対照的に、ウクライナ人はどれほど犠牲が出ようとも不条理に立ち向かい、「悪い奴は叩きのめす」という強い意志を持っています。この違いが、戦況にも影響を与えていると考えられます。

ウクライナの団結と国民形成

開戦前、ウクライナ国内が対ロシアで一枚岩だったかというと、決してそうではなかったと小泉准教授は指摘します。ドンバス地方とリヴィウ州では住民の意識が異なる方向を向いていました。

しかし、ロシアという国民共通の敵が現れたことで、ウクライナは急速にまとまりました。東野教授は、開戦から3年間で「猛烈な勢いで国民形成が進んだ」と感じています。これは政治学者のベネディクト・アンダーソンが提唱した『想像の共同体』における国民形成のプロセスを、現代において見ているかのようだと小泉准教授は述べます。歴史的、地域的な違いがあっても、共通の意識や敵対関係を通じて「ウクライナ人」としての団結が生まれたのです。皮肉にも、現在のウクライナの強い国民的団結は、プーチン大統領のおかげと言えるかもしれないと小泉准教授は付け加えています。

ドンバス地方の複雑な現実

一方で、ドンバス地方の親ロシア派の人々は、裏切られたような思いを抱いている可能性があります。ロシアに忠誠を誓っていたにも関わらず、ロシア側によるフィルタレーション(濾過)キャンプのような場所で、SNSの書き込みまでチェックされる厳しい検査を受け、拘束されるケースも発生していると東野教授は報告しています。ロシアによる「解放」は、彼らにとって期待した形ではなかったようです。

ロシアが戦争を継続できる経済・社会構造

欧米からの大規模な支援を受けているウクライナに対し、ロシアが単独で3年以上も戦争を継続できているのはなぜか、不思議に思う人も多いでしょう。小泉准教授は、その大きな要因としてロシア社会の「とてつもない格差」を挙げます。

ロシアのエリート層は非常に高い教養を持ち、複数言語を流暢に話す超絶エリートですが、その一方で、一般の労働者の教養レベルは低く、非常に厳しい暮らしを強いられています。世帯平均月収はわずか6万円程度という現実があります。

このような社会の底辺でかろうじて食いつないでいる人々が、金銭的な魅力から軍への志願を考えるケースが多いのです。現在、ロシア軍に志願すると月給60万円が得られると言われています。これは平均月収の10倍にもなります。さらに、自治体によっては志願時に100万~300万円の祝い金が出たり、戦死した場合には家族に300万円程度の補償金が支払われたりします。社会の底辺で生きていた人が、兵士として戦うことで一攫千金を夢見たり、戦死した場合には英雄として称賛され、花火まで打ち上げてもらえることもあるのです。

しかし、この経済的な動機に基づく志願兵制度にも問題があります。東野教授は未払い補償金の存在に言及し、小泉准教授は、負傷者に対する補償金が未払いになっているケースが多いようだと説明します。前線からの映像では、松葉杖をついて歩くロシア兵の姿が見られますが、これは国防省に負傷者として認められず、除隊もさせてもらえない状況を示唆しています。ウクライナ軍が撮影した映像の中には、片足を失った兵士が杖をつきながら逃げる姿に自爆ドローンが突っ込んでいくという痛ましいものもあります。このような悲惨な現実を見ると、戦争がいかに人間を荒廃させていくかが痛感されます。

結論

ロシアによるウクライナ侵攻は、単なる軍事衝突に留まらず、両国の根深い国民性の違いや社会構造のひずみを浮き彫りにしました。ウクライナは共通の敵によって国民としての団結を強めましたが、ロシアは極端な経済格差を利用して兵士を動員し、戦争を継続しています。しかし、その裏では、負傷兵が見捨てられるといった過酷な現実が存在します。この戦争は、人々の生活や尊厳を破壊し、人間性を深く傷つけているのです。

参考資料

  • 『FRIDAY』2025年6月6日・13日合併号
  • FRIDAYデジタル