イランによる米軍駐留基地への攻撃直後には急騰した原油の国際相場は、その後、それ以前の水準前後まで戻り、上値は限定的となっている。米国、イラン双方がこれ以上の武力行使の見送りを表明し、全面的な武力衝突は回避され、原油の供給懸念が緩和したためだ。今後も反米勢力による攻撃懸念など中東の緊張は継続するが、原油相場の上昇幅は限定的との見方が強まっている。
「昨年のタンカー攻撃やサウジアラビアの石油施設攻撃時と、同じような相場の動きだ。地政学リスクを意識して急騰しても、すぐに需要の減速懸念が相場を押し下げる」
石油大手の幹部は、今回の原油価格急騰・反落の状況をこう分析した。
イランからの攻撃があった8日は、ニューヨーク原油相場では、指標の米国産標準油種(WTI)が前日終値よりも4%高い1バレル=65ドル台と、昨年9月以来の高値を付けた。しかし、米トランプ大統領の報復攻撃を見送り表明を受け、下落に転じ、9日には59ドル台をつける状況だ。
危機発生でWTIが3~8ドル程度上昇するが、数日で元の水準まで戻るという相場の動きが続く。米シェールオイルの増産の一方で、米中貿易摩擦による世界経済の停滞懸念で、石油需要が減少するとの想定からだ。
さらに日本総研の藤山光雄主任研究員は「イランやイラクが原油を出荷できない状態となっても、石油輸出機構(OPEC)が減産を継続しているため、世界的には供給余力がある」ことが、原油価格の上値を抑えていると指摘する。
そのため、石油各社や業界ではWTIで50~70ドルレンジの値動きになるという見方が多く、石油元売り大手の首脳は、「この水準であれば経営への打撃はほとんどない」と語る。
ただ、国内のガソリン価格は当面は上昇しそうだ。経済産業省が8日発表した6日時点のレギュラーガソリン1リットル当たりの全国平均小売価格は150円10銭。昨年5月以来の150円台の高値となったのは、先月前半に原油相場が上昇したことが要因だ。今年に入っての中東緊張による原油価格上昇は、まだ店頭ガソリン価格には反映されておらず、今後店頭価格に転嫁されるもよう。ガソリン価格が上昇すれば、個人消費や運送業などに悪影響が出そうだ。