政府が海上自衛隊の護衛艦「たかなみ」を中東海域に派遣したのは、情勢の不安定化を受けて各国がシーレーン(海上交通路)の警戒に乗り出す中、エネルギーの中東依存度が高い日本が自国関係船舶のための情報収集まで「他国任せ」にできないからだ。護衛艦1隻と哨戒機部隊では広大な海域をカバーできないが、米国や沿岸国との連携で幅広く情報を得る狙いがある。
安倍晋三首相は2日の出航式で、たかなみが活動するオマーン湾やアラビア海北部が「日本国民の生活を支える大動脈、命綱」だと強調した。日本は原油の9割を中東から輸入し、年間数千隻の日本関係船舶が中東海域を航行している。
ところが昨年来、ペルシャ湾やホルムズ海峡で各国の船舶が何者かに襲撃される事件が続発。昨年6月には日本の海運会社が運航するタンカーが襲撃された。米国はシーレーンを護衛する多国籍の「有志連合」結成を呼びかけた。
政府高官は「この状況で自国の船の安全航行のために政府が何もしないのは無責任。特に安倍首相の思いは強かった」と明かす。7月頃には国家安全保障局を中心に「有志連合には参加せず日本独自に活動する」方向で検討を本格化した。
イランに近いペルシャ湾やホルムズ海峡を活動エリアから除外し、「有志連合」への参加も見送った背景には、伝統的友好国のイランへの配慮がある。武器使用の制限が特に厳しいため他国との共同対処が難しいのも現実だ。
護衛艦が中東に展開することでプレゼンス(存在感)も増す。つまり、米イラン対立が深まる中で「万が一の際には駆け付けてくれる」との安心感を民間船舶に与える効果がある。