令和元年の農林水産物・食品の輸出額は政府目標の1兆円には届かなかった。日本国内では人口減少や高齢化が急速に進むため食市場の拡大は見込めず、農林水産業を成長産業に育てる上では海外市場の開拓が不可欠。海外での「和食ブーム」の追い風を輸出額拡大にどう結び付けていくか、戦略の深化が問われる。
輸出額拡大を図る上では、海外経済の下振れリスクが懸念材料となる。輸出額全体の7割程度をアジア向けが占めるが、足元では中国・武漢で発生した新型コロナウイルスの感染拡大に終息のめどが立たず、アジア経済に短期的な悪影響が及ぶのは確実だ。
また、東京電力福島第1原子力発電所事故に伴い講じられた日本産食品の輸入規制は一時54の国・地域に上り、徐々に減ってきたが、なお20の国・地域で続いている。香港や中国など輸出額の上位5カ国・地域も含まれ、これら大口市場での輸入規制の緩和や撤廃が必要だ。
4月には農林水産物および食品の輸出促進法が施行され、司令塔組織となる「農林水産物・食品輸出本部」が農林水産省に設置される。農水省幹部は「これまでも(輸入規制の緩和や撤廃は)やってきたが、より強力にやる」と話す。
日本総合研究所の蜂屋勝弘主任研究員は「日本産は品質の高さという強みがある。それをベースに、輸入規制の緩和や撤廃を粘り強く働きかけることや、相手国の好みを捉えた農林水産物・食品の生産・販売が求められる」と指摘した。(森田晶宏)