肺炎を引き起こす新型コロナウイルスの感染拡大による世界経済への影響が広がる中、新興国を中心に政策金利を引き下げる動きが目立ってきた。2月に入りタイやブラジルなどの中央銀行が利下げを決定。市場への資金供給量を増やして景気浮揚を図る狙いで、20日には感染の震源地となった中国も利下げする見通しだ。ただ、相次ぐ利下げで過度な通貨安競争を招けば、世界経済のさらなる低迷につながりかねない。
5日にはタイとブラジルが過去最低水準に金利を下げ、6日にはフィリピン、7日にはロシアがそれぞれ利下げを決めた。観光業や輸出で中国への依存度が高い各国が、景気の減速リスクを回避するために利下げに動いた格好だ。20日に政策金利の公表を控える中国も利下げが濃厚で、マスクなど医療品を生産する企業などを対象に借り入れや税優遇の拡充といった財政支援も増やすとみられる。
金利を引き下げることで通貨が安くなれば輸出が後押しされ、輸入物価の上昇により低インフレからの脱却効果も期待される。海外からの旅行客の買い物も安くなるため、観光業の促進にもつながる。
だが、通貨安が続き想定以上にインフレが進めば国内消費は停滞し、地域経済を押し下げる懸念も高まる。実際、インドは昨年に利下げを繰り返した結果、通貨安が進み物価上昇率の目標を超えるインフレが景気減速を招いた。
同様の変調の兆しは見え始めている。輸出の約3割を中国に依存するブラジルの通貨であるレアルは、5日に利下げを決めた後に売りが加速。7日には1ドル=4・3レアルを割り対ドルで最安値を更新しており、通貨安に歯止めがかかるのか不安が広がる。
とはいえ、市場では2003年に世界で大流行した重症急性呼吸器症候群(SARS)同様、今回の新型肺炎も今後の気温上昇で抑制されると終息に向かうとの見解が多数だ。いまのところ米国経済は堅調で、「日米欧の先進国に対する利下げ圧力が高まる可能性は低い」(第一生命経済研究所の西浜徹主席エコノミスト)とみる向きが強い。(西村利也)