ユーチューブ、コスプレ… 漫画「永世乙女の戦い方」監修の女流棋士、香川愛生さんの圧倒的「将棋愛」





「伝統的な将棋と、新しいポップカルチャー。両方の魅力を掛け合わせたい」と語る女流棋士の香川愛生さん(松井英幸撮影)

 盛り上がりが続く将棋ブーム。女流棋士の世界も刻一刻と変化しており、熱い。昨年には、女流棋士をテーマにした漫画「永世乙女の戦い方」(くずしろ著、小学館)の連載が始まった。監修は女流棋士の香川愛生(まなお)女流三段(26)。女流棋士としての活動の一方、SNSやユーチューブなどを通じ、新たな普及活動にも力を入れる香川さん。勝負の世界に生きる女流棋士たちの戦いを描いた同作の特色や、情報発信の狙いなどを尋ねた。 (文化部 本間英士)

かわいさ×激しさ

 香川さんは平成25年、女流棋士のタイトルの一つ「女流王将」を獲得。将棋界を担う一人として、将棋の普及に力を入れたい気持ちが強くなったという。

 「私の趣味はゲームやアニメなどのポップカルチャー。自分の好きなことを通じて、若い世代にも将棋の魅力を知ってもらえれば-と意識しています。その中で、今回は漫画に関わる機会をいただけた。ぜひ挑戦したい、と思いました」

 「永世乙女の戦い方」は昨年春から漫画誌「ビッグコミックスペリオール」で連載開始。主人公は、女流棋士の頂点を目指す高校生、早乙女香。静かな対局場の盤上で、バチバチの死闘を繰り広げる女流棋士たちの姿が描かれる。2月下旬には最新2巻が刊行された。

 「3月のライオン」をはじめ、将棋をテーマにした漫画は少なくない。ただし、大多数は男性棋士の戦いが主。一方、今作は女流棋士の戦いに焦点を絞る。

 「ここまで女流棋士が多く登場する作品は少なかった。将棋漫画史の中でも鮮烈な作品だと思います」

 特色は意外なほどの「激しさ」だ。日常生活の場面では、年相応のかわいい面を見せる香たち。だが、対局中は一変する。

 〈将棋棋士は、負けると死ぬ。たかだか将棋に負けたくらいでどうしようもなくなる〉

 〈いっそ鈍器で殴って瞬殺してくれればいいのに〉

 女流棋士の心情が、赤裸々なまでに描かれている。

 監修の仕事は多岐にわたる。まずは、作者のくずしろさんからの取材対応。対局の内容や棋風、「棋士の生きざま」と表現する棋譜作成などを行う。作中の公式戦で使われるコマの書体など、細かい点にもこだわる。「棋士」と「女流棋士」の違いや、各タイトル戦などの解説も多く、女流棋士の世界を理解するうえでの“入門書”にもなりそうだ。

 「棋士自体は江戸時代からいますが、女流棋士は(昭和49年の創設から)まだ50年もたっていない“新しい職業”なんです。(漫画監修の立場に)プレッシャーも感じますが、作品を通じて将棋の魅力や、私たちが将棋にかける魂みたいなものを感じていただければうれしいです」

 今、将棋界で注目されているのが、3月7日に予定されている棋士養成機関「奨励会」三段リーグの動向だ。今期30人のうち、四段になれるのは原則上位2人のみ。“地獄のリーグ”ともいわれ、棋士になるうえでの最後の難関であるこのリーグ戦を、現在3位の西山朋佳三段(24)=女王・女流王座・女流王将=が突破する可能性がある。もし突破すれば、女性初のプロ棋士となる。

 「将棋界は伝統的な業界ですが、刻一刻と変化している。逆にいうと、いろいろな可能性がある業界なのです。私個人としても、楽しみにしています」

コスプレ反響に驚いた

 香川さんが将棋を初めて覚えたのは9歳の時。そこから実力を伸ばし、12歳で女流アマ名人、15歳でプロになった。現在はプロとして「見られる」ことへの意識が高まったが、プロ入り当初はそうではなかったという。髪を極限まで短くし、自著「職業、女流棋士」では「“女子力”を切り捨てていました」と明かす。

 「プロになりたての時は、将棋が『自分だけのもの』という意識が強かった。周りの人が自分を見ることに頓着できていなかった、というか」

 転機は18歳のころ。大盤解説会での他の女流棋士の所作や気配りを見て、女流棋士が“見られる存在”であることを自覚したという。以後、テレビやインターネットなどを通じ、マルチな将棋の普及活動を展開する。

 近年は、ライトノベル「りゅうおうのおしごと!」の人気姉弟子キャラクターをテーマにした「コスプレ写真」もネットで話題に。「正直、あんなに反響があるとは思っていなかった」と振り返る。

迷ったら勇気がいる選択

 ユーチューブには公式チャンネルを設置。総合企画プロデュース会社も立ち上げた。多様な活動で将棋界を発信し続ける理由は?

 「今はまだ出会えていない、潜在的将棋ファンに出会いたいという思いです。以前は将棋界の伝統について、どちらかというと『攻め』より『守り』が大事だと思っていました。ルールを守ることが大事だと。ただ、伝統は守るものというより、作っていく側面がある…と考えるようになりました。壊すのではなく、もっと多様性があっていい、ということです」

 「将棋界自体、いろいろなメディアを通じて新しいアプローチを探しています。私の場合、コスプレは趣味ですが、自分を鼓舞する意味もあります。私は、勇気を持って取り組むことが大事だと思うんです。選択肢に迷ったときは、勇気がいる方を選ぶようにしています」

 今後の目標は「将棋界をもっと盛り上げること」だという。「私にとって伝統的な日本文化の将棋と、現代の日本文化であるポップカルチャーはなくてはならない存在。『伝統』と『新しさ』の両方の魅力を掛け合わせ、より鮮烈な、人と人をつなげる交流の場を作っていければと思います」

かがわ・まなお 平成5年、東京都出身。立命館大卒。中村修九段門下。20年、中学3年で女流棋士に。25~27年、女流王将。SNSやユーチューブなどさまざまなメディアで将棋の普及活動を行う。著書に「職業、女流棋士」(マイナビ新書)。ニックネームは番長。



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