楽天は6日、通販サイト「楽天市場」の送料無料化について、新型コロナウイルスの流行に伴う店舗側からの要請に応える形で一律実施の延期を決めた。裁判所から近く無料化を中止するよう命令が出るのは必至の情勢の中、追い詰められて、命令を回避する策として先送りを決めたというのが実態だ。楽天としては現在も送料の一律無料化は必要だと考えており、ほとぼりが冷めた段階で再び持ち出す可能性は高い。
「公正取引委員会うんぬんの話ではない」。6日に記者会見した楽天の担当者はそう述べ、公取委が2月末に東京地裁に緊急停止命令を申し立てたことの影響はないとの見解を繰り返した。
この日の会見に姿は見せなかったが、楽天の三木谷浩史会長兼社長はこれまで「たとえ政府と公取委と対峙(たいじ)しても必ず遂行する」と述べており、公取委の影響を認めれば従来の強気の姿勢と矛盾する。新型コロナウイルスにより店舗が無料化に対応できないとの理由を持ち出せば、公取委に対して“負け”を認めることも回避できると考えたとみられる。
しかし、実態は公取委が申し立てた裁判所の中止命令回避を狙った先延ばし策といえる。過去の申し立ては7件あるが、事業者が違反行為を是正するなどした2件を除けば、いずれも公取委の主張が認められており、今回も中止命令が出る可能性が高いとみられていたからだ。
裁判所の中止命令を受ければ企業イメージの低下は必至。楽天にとって今年は携帯電話事業に参入する大事な年で、顧客獲得のためにもブランドの棄損は最小限に抑えたいとの判断が働いたとみられる。
それでも楽天は一律の送料無料化という大きな方向性を変えるつもりはない。今回の方針も「撤回」ではなく「先送り」という形にしたのもその現れだ。ネット通販でトップを争うアマゾンは、2千円以上の購入や会費を払うことで送料を無料にして売り上げを伸ばしており、「激化する競争の荒波を乗り越えるにはこれ(送料無料化)しかない」(三木谷氏)というのが本音だ。
その意味では今回の措置は楽天として大方針を保ちつつ、中止命令を避けるという苦肉の策といえ、楽天にとって経営課題の解決につながるものになってはいない。無料化に反対した出店者との溝も埋まっておらず、今後も難しいかじ取りが迫られそうだ。(蕎麦谷里志)