【シンガポール=森浩】世界で新型コロナウイルスの感染が広がる中、シンガポールの対応が注目されている。7日までに138人の感染が確認されているが死者は出ていない。米ブルームバーグ通信は、他国の感染増加ペースと比較して「見たところ押さえ込んでいる」とも指摘。背景には感染状況に関する情報の積極的な発信など、独自の対応がある。
シンガポールでは1月23日に初めて感染者が確認されて以降、保健省が全感染者に番号を付与している。保健省のサイトでは実名こそ出ていないが、番号とともに国籍、年齢、性別、病状の重さなどを公表している。感染者が出た企業名や施設名、イベント名の詳細も公開の対象だ。クラスター(小規模な感染集団)を6つ認定し、感染者がどのクラスターに接触していたかも公にしている。
「政府の姿勢は、プライバシーに配慮しつつ、できるだけ多くの情報を国民に共有するということだ」と話すのは、シンガポール経営大のユージン・タン准教授(法律学)だ。正確な情報発信は、患者の追跡を容易にするのと同時に、フェイクニュース(偽情報)や嘘が蔓延(まんえん)することを減らすのに役立つという。
日本が情報公開について、基本的に自治体や企業側に対応を委ねている点とは異なっているといえる。
同時にシンガポールは強制力を伴う措置を採用した。3月4日深夜からは、空港や港で熱などの症状があった場合、新型コロナウイルスの感染検査を実施。検査を拒否した国民には罰則が科され、短期滞在予定者は入国を認めない。
また、中国や韓国などを2週間以内に訪問した国民には、入国は認めつつ、2週間の外出を禁止する自宅待機命令を発出した。命令に違反すると、最大で罰金1万シンガポールドル(約76万円)か禁錮6月の罰則が科される。
警察の協力を得ながら、防犯カメラで感染者が歩いたルートをたどり、感染経路を割り出す作業も行っているが、一方で、対策を強めても感染者が増え続けている現実もある。
タン氏は「新型コロナウイルスの大きな課題は、健康問題に限らず、蔓延する恐怖にもある」と指摘。事態が長期化の兆しも見せる中、政府が発信する「信頼できる情報」の重要性を強調している。