安倍晋三首相は28日の記者会見で「最大限の警戒を国民にお願いする。この戦いは長期戦を覚悟する必要がある」と訴えた。人口と企業が集中する首都東京で新型コロナウイルスの感染拡大が止まらず、都市封鎖(ロックダウン)に追い込まれれば、社会全体と経済は深刻なダメージを受ける。政府と地方自治体、企業が総力を結集し、感染蔓延(まんえん)の阻止に向けた取り組みを進めるには国民の協力が欠かせない。
首相は2月下旬、「この1~2週間が感染拡大か終息かの瀬戸際」と訴え、大型イベントの自粛や全国小中高校の休校を要請した。国民生活に混乱を招いたことを考慮し、2月29日と3月14日、いずれも土曜日に自ら記者会見を開き、理解と協力を求めた。
政府方針により企業活動は大きく制限され、子供たちは卒業や進級など学校生活の大事な節目で自粛を余儀なくされた。にもかかわらず、多くの国民が首相要請に従ったのは、我慢や不便が一時的なものだと思っていたからだろう。
だが、世界で感染拡大が止まらない。7月に開催予定だった東京五輪・パラリンピックが来年に延期されたことも、未知のウイルスとの闘いが長期化する可能性を示唆する。
都市部を中心に感染経路が特定できない事例が相次ぐ中、集団感染を起こさないためには、人や場所の「密閉」「密集」「密接」を避けることが肝心だ。感染爆発を回避できるかは、国民一人一人が「不屈の覚悟で戦い抜かなければならないという強い危機感」(首相)を持ち続け、行動できるかどうかにかかっている。一方、医療体制の強化や品薄が続くマスクの供給など、政府は国民の不安を払拭する責任がある。
首相は会見で、景気失速の回避に向け「財政、金融、税制を総動員し、強大な対策を実行する」と明言した。世界経済に急ブレーキがかかり、首相の経済政策「アベノミクス」は政権発足以来、最大の危機に直面している。新型コロナを封じ込めつつ、経済をいち早く成長軌道に戻せるか。4月上旬に取りまとめる緊急経済対策は、国の命運がかかる重要な政策判断となる。(小川真由美)