【パリ=三井美奈】新型コロナウイルス感染が広がるフランスで、外出禁止令が施行されてから17日で1カ月を迎える。元患者や遺族が、ウイルスの恐ろしさを語った。
「息ができず、釣り上げられた魚のように、もだえていた。『酸素よ、肺に入れ』と必死で、死の恐怖を感じる余裕もなかった」
パリ郊外の会社員、ジル・ブレバンさん(52)は3月9日、集中治療室(ICU)に救急搬送されたときのことを回想した。約2週間後に退院。元ラグビー選手で筋肉が自慢だったが、体重は10キロ落ちた。自宅の階段を上るだけで、今も息が切れる。電話でのインタビュー中も時々、声を詰まらせた。
2月末、40度の熱が出た。1週間後には妻も発熱し、臭いが分からなくなった。妻が「新型コロナかも」と自分で救急車を呼んだ。救急隊員はブレバンさんに「あなたも危ない」と言い、吸入器を付けた。
病院では、マスクや防護服が不足。看護師に「あなたが私を呼ぶ度、新しいマスクと防護服を着けねばならない」と言われ、のどが渇いても我慢した。「新型コロナは高齢者の病気と思っていた。陽性といわれ、『まさか自分が』と信じられなかった」と話す。
パリの会社員、ブリジットさん(58)は、義兄(75)を亡くした。
義兄は外出が禁止される直前、パリから南西部にある実家の城に移った。感染疑いのある親族がおり、邸内を仕切って隔離生活していた。ベランダで親族の子供とあいさつした翌日、義兄は高熱とせきに襲われた。
地元の病院に行ったが、病床が足りず、廊下で待たされた。付き添った義妹は帰宅。翌日、「死亡した」と病院から連絡があった。遺体が戻ってきたのは、10日後。感染防止用の袋に包まれていた。教会で葬儀は行えず、城にいた家族で敷地内の墓に埋葬した。ブリジットさんは、「私と夫はインターネットのビデオで埋葬の瞬間を見守った。あまりに唐突な死で、信じられない」と衝撃を語った。
フランスの感染者は15日までに約10万人。死者は1万7千人を超えた。
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