【主張】「緊急事態」延長へ 出口戦略を明確に示せ 特措法の改正をためらうな


 安倍晋三首相が新型コロナウイルスの感染拡大を受けた緊急事態宣言の期間延長の方針を表明した。全都道府県を対象に、6日までの期限を1カ月程度延ばす。

 政府の専門家会議は1日、外出自粛などを現時点で緩和すれば感染が再び拡大するとして今の取り組みを継続するよう提言した。人々が行動制限を当面続ける「新しい生活様式」の定着を求めた。

 首相は「大変過酷な医療現場、医療従事者の負担を考えると、現状は大変厳しい」と語った。

 ≪みんなの協力が必要だ≫

 外出自粛などで感染拡大を遅らせ、抑えることで地域の医療体制を保ち一人でも多くの命を救う。そのための宣言だ。急いで解除して密閉、密集、密接の「3密」状態を多く作り出せば元も子もない。延長はやむを得ない。

 厳しい暮らしが続くことになるが、人との接触削減が効果的である以上、外出自粛などの自発的協力を強めたい。

 「自分だけならいいだろう」という考えで観光地へ遊びに行ったり、休業要請を受けた「3密」状態の店に出かけてしまう人が一部にいるのは残念だ。協力の輪に加わってほしい。

 自粛していないと思われる人や店に心ない言葉を投げつけたりする例があるが、憎しみを込めては真意は伝わらない。お互いに理性ある行動をとりたい。

 専門家会議によれば、全国の新規感染者数は緩やかな減少に転じた。1人の陽性者が何人に感染させるかを示し、その値が1を下回れば感染減少に転じるとされる実効再生産数が4月10日時点で全国0・71、東京都0・53だったのは朗報といえる。それでも人との接触は8割減にはなっておらず、減少のスピードが期待よりも遅いことは気にかかる。

 特に政府や自治体には一層の努力を求めたい。

 まず、分かりやすい説明が欠かせない。政府は4日に延長を正式決定するが、どのようなデータで延長を決めたのか、その数字がどのくらいになれば解除するつもりか。「出口戦略」を含め明らかにしてもらいたい。

 西村康稔経済再生担当相は、延長後に徹底した外出自粛を求める地域は特定警戒都道府県とし、その他の県は一定の緩和ができるとの見通しを示した。妥当な措置だが、特定警戒都道府県とその他の県で人との行き来が増せば感染が再び全国に広がってしまう。その対策を政府が講じるべきだ。

 休業要請に応じない事業者への罰則設定や広域にわたる移動制限の実効性をあげるため、新型インフルエンザ等対策特別措置法の改正をためらうべきでない。

 多くの知事は宣言により与えられた特措法上の権限を使いきれていない。特措法に基づき、休業要請に応じない店名が公表されているが、当初の宣言期間が終わる今頃では遅すぎる。

 ≪経済への目配り怠るな≫

 現場の医療機関が全力を尽くしていても、PCR検査を迅速に受けられなかったり、自宅待機のまま症状が急に悪化または亡くなったりする例がなお存在する。政府と自治体は猛省すべきだ。

 知事には臨時医療施設開設のため、所有者の同意なしに土地・建物を使用する権限さえある。必要な医療行為を地域の医療関係者に要請・指示もできる。全ての知事は検査の充実や軽症者の宿泊施設整備をもっと主導すべきだ。

 経済社会への目配りも極めて重要だ。経済活動の自粛が長引くことで一層の苦境に陥る中小・零細事業者が続出しかねない。4月に緊急経済対策をまとめた頃よりも事態ははるかに厳しい。どのように対応するかを首相は明確に示す必要がある。

 中小企業に最大200万円を支払う給付金では不十分だという声は多い。テナント料などの固定費すら捻出できず、廃業の危機にある事業所がたくさんある。実質無利子・無担保融資で急場をしのげても、財務体質の悪化は今後の経営に重くのしかかるだろう。

 中小企業の経営や地方経済が壊滅的な打撃を受ければ感染収束後も停滞から抜け出せまい。休業協力金の拡充を含め自治体任せで済む話ではない。経済的理由による自殺者が出ることも避けたい。

 ウイルス禍の抑え込みと経済社会活動の段階的再開の両立は難しい課題だが、その道を歩まねばならない。



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