新型コロナウイルス感染症対策をめぐり、政府は専門家の意見を聞いた上で判断を下している。一方で政府の専門家会議(座長・脇田隆字(たかじ)国立感染症研究所長)は独自に国民向けに情報を発信し、存在感を示している。現実的な対応を模索する政府に対し、エビデンス(科学的根拠)に基づき理想を追求する専門家は時にジレンマにも陥っている。(坂井広志)
専門家会議が1日にまとめた提言には、原案にあった「当面、新規感染者数がゼロにはならず、1年以上は、何らかの形で持続的な対策が必要になる」との一文が消えた。代わりに「国内の感染状況に応じて、持続的な対策が必要になる」との曖昧な文章となった。
副座長の尾身茂・地域医療機能推進機構理事長は1日の記者会見で「1年以上」が消えた理由について「時期を明確に言えるようなウイルスではない。1年とか半年とかは残念ながら誰も言えない」と答えた。
しかし、政府側の意向を反映させたと見る向きは強い。安倍晋三首相は尾身氏と頻繁に面会し、認識を共有している。「自粛疲れ」が漂い、経済的ダメージも出ている中、「当面」であっても新規感染者数がゼロにならず、「1年以上」対策が必要と言い切るのは、政府にとってなかなか受け入れ難い。専門家会議の提言とはいえ、来年夏に東京五輪・パラリンピックを控える中、国際社会に不安も与えかねない。
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政府が専門家会議を設置したのは2月14日だった。「医学的な見地から助言を行う」のが目的で、当初は黒子に徹するとみられていた。ところが、2月24日に初めて見解を表明し、関係者の間で驚きをもって受け止められた。見解は「これから1~2週間が収束できるかの瀬戸際」という内容だった。
異例の見解を発表した理由について、尾身氏は同日の記者会見で「今はクリティカル(重大)な時期だ。われわれの考えを述べるのが、公衆衛生、感染症学に携わっているプロフェッショナルとしての責務だ」と語っている。だが、関係者によると「あまりにも政府の対応が遅いために出した」のが真の理由という。