千代田タクシー(静岡市葵区)は、ひとり親の就業支援に積極的に取り組んでいるとして、厚生労働省の「はたらく母子家庭・父子家庭応援企業表彰」を受賞した。ひとり親は仕事と子育ての両立が難しいが、同社の加藤高立(たかはる)社長(69)は「時間に拘束されず柔軟に仕事ができるよう工夫している」と、働きやすい職場づくりに努めている。
(岡田浩明)
--母子・父子家庭のひとり親を採用し始めたきっかけは
「職業安定センターに募集を出し、そこの紹介で入社した人が多い。その中には3人の子供を育てる女性もいました。タクシーのドライバーの仕事は、ハードルが非常に高いというイメージがあると思います。特に女性にとっては誰を乗せるか、どこに行くのか分からない。さらに夜も運転しなければならないという不安があるでしょう」
--そのハードルをどう乗り越えたのか
「わが社は昔から『流し』の営業スタイルではなくて電話受注が中心です。いわゆる利用客の顔が分かる営業をしています。女性ドライバーには介護タクシーをやってほしかった。利用客にしてみれば女性の方がいろいろな面で安心するようで、仕事量が増えてきました」
--夜遅くまで運転するというハードルは
「電話受注が中心なので駅前で利用客の順番待ちをすることも少ない。会社から指示される仕事をやっていれば、十分に仕事量があります。例えば、駅に利用客を送って会社に戻り、また配車されて次の場所に行くという動きを繰り返していれば、夜遅くまで仕事をしなくても、それなりの生活ができる程度の売り上げが確保できます」
--就職する際は事前に面談するのか
「タクシードライバーという職業がその人の生活スタイルなどにマッチしているかどうかが大事で、それを事前に話し合います。幼い子供を持つ女性でも、タクシーなら利用客を駅まで送り、その後、ちょっと自宅に立ち寄って子供のおやつの支度とか、洗濯物を取り込むとか『会社に連絡してくれれば自由にやっていいよ』と伝えています。時間に拘束されず柔軟に仕事ができます。そういう点も事前に伝えます」
--会社の雰囲気も変わったか
「女性ドライバーが増え、現時点で9人いる。会社の前にチューリップを植えてくれたりして社内が明るくなりました。利用客も女性ドライバーと会話を楽しみたいから遠回りをして帰宅したということがよくあります。ちょっとした気遣いが自然にできる点がうれしいみたいです」
--ただ、新型コロナウイルス感染拡大がタクシー業界を直撃している
「雇用調整助成金を活用するなどしてやっていくしかない。ジャンボタクシーを増やして観光需要も取り込んできたが、予約はすべて真っ白。今後、感染症が収束してもV字回復はあり得ないと思う。無担保無利子で運転資金を借りても返す体力がなく、事業休止に追い込まれる会社が順番に出てくる可能性があります」
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かとう・たかはる 昭和25年8月9日生まれ。事務機器関係の民間会社に勤務し、平成7年ごろ、父親が経営していたタクシー会社を継いだ。介護や観光部門の輸送にも力を入れ、全体の従業員は約120人。うち一般のタクシー部門は67人。新型コロナウイルス感染拡大で利用客が落ち込む中、静岡市内の飲食店と連携して宅配サービスにも乗り出した。静岡市出身。