4月24日に亡くなった外交評論家の岡本行夫氏は、厳しい安全保障環境を踏まえた日本のあるべき姿について、鋭い論考を重ねた。昨年7月28日付産経新聞朝刊に掲載した、中東へ自衛隊艦船の派遣を求める寄稿を再掲する。
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ペルシャ湾が緊迫している。もともとはトランプ米大統領が政治的に作り出したイランとの緊張が発端だ。迷惑な話だが、現実に民間船舶6隻が何者かに襲われる事態となっている。襲撃者は不明のままだが、安倍晋三首相の和平仲介気運などを吹き飛ばし、米国とイランの武力衝突を望む人々の仕業だろう。
トランプ大統領は、各国はホルムズ海峡を通る船舶を自分で守れとツイートし、米国は「有志国連合」を提案している。具体的な中身は不明だし、欧州の足並みもそろわない。しかし、仮にそのような構想が動き出すときに日本はどうするか。いよいよ安倍外交の正念場である。
答えるべきは、同盟国として米国に協力するかどうか、ではない。自国の船を自分で守るのか、それともリスクを他国に押しつけて自分は圏外に立つのか、という選択である。
海洋の安全確保について、日本はこれまでリスクは負担せずにカネで済ませてきた。1987年、イラン・イラク戦争の際には、湾内の民間船舶を護衛する多国籍艦隊が組織された。日本はペルシャ湾の最大利用国であったが、米国の参加要請を断り、電波灯台の設置で勘弁してもらった。
それで済むはずもなく、日本は翌年に特別協定をもって多額の在日米軍経費の増額を行い、今日に至っている。1990年、湾岸戦争に際して艦船も航空機も人も出さなかった日本が、130億ドル(1兆7千億円)の巨費を米国に支払った例は有名だ。
しかし小泉内閣の下ではカネによる対応ではなく、アフガニスタンのタリバン封じ込めを支援して海上自衛隊の補給艦をインド洋に派遣し、各国海軍に給油活動を行った。これは高く評価されていたが、民主党政権は各国の継続希望を押し切って2010年に補給艦を撤収し、代わりにアフガニスタンの警察官の給料など5千億円を差し出す道を選んだ。このように巨額の税金を使って切り抜けてきた日本だが、今回はカネで済ませられる話ではない。有志国連合といっても、目的は自国船舶保護である。個別的自衛権の話だ。