新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、国内で東京五輪の聖火リレーが延期されてから1カ月半が過ぎた。この延期に複雑な思いを抱いているのが、五輪史上初となる水素燃料を使ったトーチを開発したチームだ。燃焼時に二酸化炭素(CO2)を出さず、次世代エネルギーの主力とされる水素燃料を身近な存在に感じてもらおうと、チームは「冷える」といった特有の障害を1年半の開発期間をかけて乗り越えてきた。大会組織委員会では、リレーの一部区間で使う水素トーチを30本用意したが、今はスタートラインに立つ日を静かに待っている。
水素の灯で「印象変えたい」
日本は、水素を燃料とした燃料電池車(FCV)や水素燃料電池などの分野で世界をリードする。大会組織委員会には、今回の五輪を「次世代の日本を引っ張る技術力の見本市にしたい」(幹部)という狙いもあることから、水素を燃料としたシャトルバスを導入するなど、随所にアピールする舞台を作ってきた。
ただ、国内では依然として水素に「危ない」「爆発しそう」といったイメージが残るのも事実だ。「市街を走る聖火として、水素が安全に燃える姿をみてもらえれば、水素燃料への日本人の印象が変わるかもしれない」。こう考えたのが、水素トーチを作るきっかけだった。