【カイロ=佐藤貴生】イスラエルで14日にも新政権が発足する。ネタニヤフ首相の政敵で野党勢力を率いてきたガンツ元軍参謀総長が新型コロナウイルスの感染抑止を重視し、政治の停滞を終わらせるために歩み寄った。ネタニヤフ氏は収賄罪などに問われ、24日に初公判が予定されているが、安定した外交・安全保障政策に加えて新型コロナ感染拡大の際には迅速に対策を取って支持を維持。引き続きイスラエルの顏として政界をリードする。
イスラエルでは昨年4月と9月、今年3月に国会選が行われたが、与野党の議席が拮抗(きっこう)して新たな政権が成立しなかった。
しかし、新型コロナ感染拡大を受けて右派・宗教勢力を束ねるネタニヤフ氏と、中道・左派勢力を主導するガンツ氏が4月に連立政権の樹立で合意した。ネタニヤフ氏が1年半にわたって首相を続投し、その後にガンツ氏が同じ期間、首相を務める。ガンツ氏はそれまで副首相兼国防相に就くとの観測がある。
ガンツ氏はかつてパレスチナ側との対話も除外しないと示唆していたが、1月下旬に米政権が公表したイスラエル寄りの新中東和平案をめぐってトランプ米大統領と会談し、「重要で歴史的な一里塚だ」と和平案を称賛。占領地ヨルダン川西岸にあるユダヤ人入植地などの併合に向け、ネタニヤフ氏と歩調を合わせるとの見方が出ている。
ガンツ氏は13日、エルサレムでポンペオ米国務長官と会談した後、「協力して働くことを楽しみにしている」とツイッターに書き込んだ。対イラン政策ではネタニヤフ、ガンツ両氏の方向性に大差はなく、今後も米国と協調してイランに圧力をかける方針だ。
ガンツ氏は「起訴された首相には協力しない」としてネタニヤフ氏と敵対してきた。一転して同氏との連携にかじを切ったため同僚議員からは批判も出ており求心力には陰りもみえる。
イスラエル有力紙の記者は「ガンツ氏らがネタニヤフ氏を支持する宗教政党と協力関係を築けるかなど、課題はある」としており、政権運営が円滑に進むかには不透明な面もある。