「ラジオで卒業式はできないだろうか」。今年3月、茨城県牛久市にあるコミュニティーラジオ放送局「FMうしくうれしく放送」の放送部・営業事務局部長、沖山真智子さん(40)のもとへ、市教育長から相談が持ち込まれた。
市内8つの小学校、5つの中学で予定された卒業式は、新型コロナウイルスの感染拡大を避けるため、いずれも規模を縮小。式典のメインとなる校長の児童、生徒へ向けたメッセージも3分程度と短くならざるを得なかった。
「やってみましょう」。快諾した沖山さんはすべての学校へ収録に赴いた。「新型コロナで大変だが、君たちには未来がある」「頑張って今を乗り越えてほしい…」。優しく語りかけたり、人生訓なども交えた哲学的な内容もあったり。スタイルはそれぞれだったが、各校長が式典に向けて準備していた思いのたけをマイクへぶつけた。
この特別番組は中学が3月13日、小学校が17日と卒業式当日の午後に1校ずつ放送。保護者からは「校長先生の言葉がきちんと聞けてよかった」と感謝のメールが届いた。
本番の卒業式では飛沫(ひまつ)感染を防ぐため校歌は歌えず、演奏を短く流すだけだったが、番組ではメッセージに続いて校歌をフルコーラス放送し、ラジオの前で熱唱した子供も多かった。「久しぶりの校歌が懐かしかった」「涙が出た」といった反響も寄せられた。
FMうしくうれしく放送はNPO法人(特定非営利活動法人)が運営し、5年前の平成27年、県内7番目のコミュニティーラジオ局として開局。きっかけは23年の東日本大震災で、有事にきめ細かい地域情報の発信を期待されてきた。