来年9月に迎える安倍晋三首相の自民党総裁任期満了を見据え、党内の動きが活発化している。新型コロナウイルスの災禍で長らく続いた「安倍1強」の構図がほころびを見せ、「ポスト安倍」レースにも異変が生じている。首相からの禅譲を狙う岸田文雄政調会長も目算が狂い、首相と距離を置く石破茂元幹事長が党内の支持獲得に動き出した。党役員人事で続投かが焦点となる二階俊博幹事長の思惑も錯綜(さくそう)し、今国会が閉会する17日以降、政局は激しさを増しそうだ。
「次の時代を担う人間の一人として努力をしていきたいという思いは変わっていない」。岸田氏は15日の記者会見で、総裁選への思いを改めて吐露した。「ポスト安倍」候補として首相のみならず、麻生太郎副総理兼財務相らから注目される。新型コロナ収束後の国家像を議論する「新国際秩序創造戦略本部」の立ち上げも主導し、新時代のリーダーとして存在感を示そうとしている。
一方で新型コロナ対策として主導した減収世帯への現金30万円給付案を覆される憂き目にもあった。背景には「蚊帳の外」に置かれた二階氏の不満もあったとされ、岸田氏周辺は「他の党幹部らともっとコミュニケーションをとるべきだ」とつぶやく。
「次の首相にふさわしい政治家」として世論調査のトップを走る石破氏も精力的に動いている。人付き合いの悪さも手伝って党内で支持の広がりを欠いていたが、9月に予定する石破派(19人)パーティーでの講師をこれまで距離があった二階氏に依頼。最近では議員宿舎で若手議員と「たこ焼きパーティー」を楽しむなど派外への浸透を虎視眈々と狙う。とはいえ、党内には「内閣支持率の低下に付け込んでいるだけで『反石破』勢力が固まる結果を招く」(ベテラン)との冷めた見方も根強い。
菅義偉官房長官も有力候補に挙がる。総裁選への表立った動きは見られないが、周囲には「(岸田氏が総裁では)選挙で勝てない」と漏らす。首相は菅氏との関係を「一心同体」と語るが、総裁選でたもとを分かつ可能性がある。