【ソウル=桜井紀雄】北朝鮮が16日、「対話の象徴」として開城(ケソン)に韓国と共同設置した連絡事務所を爆破するという強硬手段に出た背景には、今、韓国と対話を断絶しても対米関係に響かないとの判断があるもようだ。韓国に向けて最高指導者の怒りを示すとともに、国内には海外情報の遮断に断固とした姿勢を誇示することを優先した形だ。
「連中と決別するときになった」
「話ののみ込みが遅い一味が『脅迫用』と誤解しないよう連続的な行動で報復すべきだ」。金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長の妹、金与正(ヨジョン)党第1副部長は13日の談話で韓国の文在寅(ムン・ジェイン)政権を念頭に、連絡事務所の破壊を予告しながらこう主張した。
「南朝鮮(韓国)の連中と決別するときになった」とも断言している。
韓国の脱北者による正恩氏非難ビラの散布に最初に強い反発を示した4日の談話では「私は悪事を働くやつより見ないふりをするやつが憎い」と文政権を非難し、ビラ散布を含む敵対行為の禁止について2018年の南北首脳会談時に合意したはずだと強調した。
開城工業団地や金剛山(クムガンサン)観光などの経済協力事業は、会談で取り上げながら再開のメドもない。「合意を履行する意志があるなら」まずはビラ散布を阻止すべきだとも主張している。文大統領は何一つ約束を守っていないとする正恩兄妹の憤りを表しているとみられる。
対米関係に響かぬと判断
大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射などと違い、トランプ米政権を直接刺激するものではなく、南北対話が断絶しても、正恩氏とトランプ大統領の個人的関係が続けば当面、支障はないとの計算もうかがえる。
北朝鮮メディアが「敵対勢力の思想・文化浸透」を警戒する論調も最近、目立っている。韓国製ドラマのひそかな視聴が住民らの間に流行していると伝えられて久しい。新型コロナウイルス対応で住民らが自宅にこもる機会が増えた半面、思想引き締めのための集会は頻繁に開けなくなった。
ビラ問題を契機に北朝鮮内では、反韓国キャンペーンを展開しており、韓国との「対話の象徴」の爆破は、国内住民に見せつける側面も強いとみられる。
