国家再興の思い込められ
華やかな外交活動というイメージとは裏腹に、外務省には先の大戦後、外交活動が停止させられるなど苦難の時代があった。組織存亡の危機ともいえる時期に開設されたのが外務省研修所だった。本書は、埋もれていた史実に光をあて、戦後秘話として現代に蘇(よみがえ)らせている。
設立には当時の吉田茂外相(後に首相)や幣原喜重郎首相らの強い危機感があった。「外交の勘のない国家は滅びる」。吉田らは研修所を設立して次世代の外交官を養成しようとしたのだ。
驚くのは、研修所が終戦から半年余りしか経ていない昭和21年3月という時期に超スピードで開所されたことだ。本書によると、この設立は、「国家主権を制限され、在外公館は閉鎖され、機構の縮小を強いられた時代」にあっての英断だった。
戦前にも職員訓練所などはあったが、在外研修(語学研修)が主で国内の研修はほとんど機能していなかった。戦後のそれは法律に基づく初めての総合的な研修制度となった。その中身は、外交官の武器である語学研修をはじめ、その素質向上を目指し、政治、外交、経済、社会、文化の科目も加えられた。在外公館再開に備え、同行する配偶者向けにも語学や茶道、華道が教えられたという。
新人外交官の研修では当時の制度を基礎とし、現在では国内において入省直後に約1カ月半の集中研修、約1~2年の実務を行いながらの語学研修、そして再び集中的な約3カ月の研修を経て、2~3年の在外研修に送り出す方法が取られている。
著者はキャリア外交官で現職の研修所所長だ。身びいきにならない配慮、また堅い書物にしない腐心もうかがえる。
史実では、外務省法律顧問として明治期の日本外交に尽力したヘンリー・デニソンの存在を掘り起こしている。また、国内の他の省や主要国の研修制度を紹介。外交官必読の書や外交官の7つの資質という記述もあり、コンパクトな新書に豊富な内容を盛り込んだ。
読後ふと、現代の私たちは先人の労苦をどこまで受け継いでいるかという思いにも駆られた。研修所史を通じて、戦後の歩みを再考する書としても意義がありそうだ。(光文社新書・800円+税)
評・大家俊夫(編集局編集委員)