【この本と出会った】『まんが日本昔ばなし第2巻』 命の力と幸せの価値観 エッセイスト、コメンテーター・安藤和津



『まんが日本昔ばなし第2巻』
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 私にとって「食」と「本」は命の栄養である。栄養はバランス良く摂取したいので、「食」「本」共にオールジャンルの雑食系。デジタル書籍も人気だが、ページをめくる度に漂う独特の匂いと未体験世界の入り口に立つワクワク感は、紙ならではの至福の瞬間だ。

 誰もが想像し得なかった「新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言」、それに伴う「自粛生活」。私はといえば、夫の映画のロケハンで滞在していた高知の長女宅で足止めとなり、初めての“毎日が日曜日”生活が始まった。活字中毒の私は、ここぞとばかりネットで本を注文。本屋大賞の『流浪の月』、4月発売のイタリア人小説家のエッセー『コロナの時代の僕ら』、御年94歳の郷土料理研究家、松崎淳子さんの『土佐寿司(ずし)の本』…。読書ざんまいを期待していたが、現実は甘くなかった。

 ジジ、ババ、娘、5歳の孫の3世代同居は朝、昼、晩3食に、洗濯、掃除に追われ、あっという間に2カ月が過ぎた。しかし、孫の読み聞かせを通して、思いがけず心を打つ本との出会いもあった。

 「むかし、むかし…」で始まる「まんが日本昔ばなし」、全60話の懐かしのシリーズだ。しかも万年けんしょう炎のババにはありがたい、手のひらサイズのミニ本である。有名な「桃太郎」や「さるかに合戦」などはもちろん、私も初めて出会う伝説やおとぎ物語もたくさんあってびっくり。各地に語り継がれた先人たち、日本人の伝統精神の物語はどれも自然とともに生き、命あるもの全てを愛し、身の丈に合った幸せに感謝するという今の時代と正反対の価値観で、読み聞かせるうちに胸がチクリと痛んだ。

 第2巻収録の「びんぼう神と福の神」は、幸福の尺度という意味でも感心させられた。びんぼう神が住みついているせいで、しょぼくれていた男が働き者の嫁をもらい、生活は一変。びんぼう神は泣きながら夫婦に自分の代わりに福の神がやって来ると訴える。大喜びのはずの夫婦だが、せっかく長く付き合ってきたんだからと、逆にやってきた福の神を追い返してしまう。夫婦は、大金持ちになれなかったが、びんぼう神とそれなりに幸せにくらしたとさ。めでたし、めでたし。コロナ禍で感じた普通の生活のありがたみと相通ずるのではないだろうか。

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