【ニューヨーク=上塚真由】11月に大統領選を控える米国で、マスク着用の是非が政治問題化している。新型コロナウイルスの累計感染者が300万人を超える中、トランプ大統領(74)は公の場でマスク着用を避け、全国一律の義務化にも慎重姿勢を堅持。これに対し、民主党の候補指名を確実にしたバイデン前副大統領(77)はマスク着用を徹底、感染予防の範を示さないトランプ氏への攻撃を強めている。
トランプ氏はコロナ禍でマスク着用に消極的な立場を取り続けてきた。だが、身内の共和党からも着用を求める声が強まり、7月1日にFOXビジネス・ネットワークのインタビューで「私は(マスク着用に)大賛成だ」とし、自身も社会的距離が保てない状況では「着用する」と述べ、方針を転換。ただ全国一律に義務化することには「(人口密度が低く)人との距離を保てる場所がたくさんある」と否定的な考えを示し、独立記念日(4日)の関連行事ではマスクなしで参加する姿が報じられた。
多くの米メディアは、トランプ氏がマスクをしない理由を、マスク姿が弱々しく映ることを嫌い、自らを男らしく見せたい思惑があると読み解く。また「個人の自由」を理由にマスク着用に反対する保守層が、トランプ氏の支持層と重なることも理由の一つに指摘する。
こうした中、米社会ではマスク着用が予防策だけでなく、「反トランプ」の象徴ともなり、着用徹底派の民主党に対し、民主党に屈したくないトランプ氏側という対立軸が生まれている。
バイデン氏は外出時の着用を徹底し、インターネット上でのイベントでもあえてマスク姿で登場。トランプ氏を「(マスク拒否は)人々の命を危険にさらすだけだ」などと繰り返し非難、6月末には「マスク着用を義務付けるために可能なことはすべてやるだろう」と述べ、大統領になった場合、権限を行使して義務化する考えを示した。
南米ブラジルでは7日、マスクなしで行動してきたボルソナロ大統領の感染が発覚したが、米国ではマスク着用は、再度の経済封鎖を避けるための手段として着目する動きも広がる。
米金融大手ゴールドマン・サックスは、全米でマスク着用が義務付けられた場合、実質国内総生産(GDP)の落ち込みを5%軽減できると試算した。コロナ対策が後手に回り支持率低下で悩むトランプ氏にとって、マスクは軽視できない問題となっている。