【小菅優の音楽と、夢に向かって】音楽と「だし」との関係


 チャーシューを煮ていてふと思い出しました。学生のころ、ドイツのピアノの先生が演奏を極めることを「作品を煮詰める」と言っていたことを。

 何時間も煮詰めて醤油(しょうゆ)やみりんとともにショウガやネギの味が染み込むのを我慢強く待つ。じっくり時間をかけて「煮詰める」ことによってよりいいものができるのは、演奏を極めることと似ているようです。

 しかし、先生は「塩を一つまみ入れすぎるだけで台無しになってしまう」とも。確かにその通りです。料理するときはいつもアバウトで、適当に調味料を入れる私ですが、今日はちょっと濃すぎるとか、薄すぎるとか、味見するのを抜かして横着していると、満足する結果は出ません。

 音楽でも、ちょっとでも邪念や虚栄心が入ると、せっかくの素晴らしい作品が台無しになってしまうこともあります。

 最近、おうち時間が増え、手間のかかる料理にいろいろ挑戦しましたが、「だし」というものに興味がわいてきました。ハーブや調味料を加え、どんなコンビネーションが合うか。最適な相性の味が結合したとき、初めて生まれるハーモニー。音楽においても、ベースの音、高音、そしてとても大事な内声が絶妙なバランスで合わさったとき、素晴らしい化学反応が生まれます。

 ラーメンのスープを普通、家庭で使うような材料でどんなものができるか試したのですが、やはり難しい。まず、かなり濃く煮たチャーシューのだしを使ったら醤油の味が勝ってしまって失敗。そうこうしているうちに、数日前に煮たあまり油っぽくない牛バラの煮汁と別に作った鶏ガラスープを合わせて、ほんの少し豚バラも入れて煮詰めてみました。これが結構おいしかった。

 でもピアノの演奏に関しては、そんな趣味程度の研究では足りない…。プロとして、奏でる音楽の「最初の一口」から人を動かせないといけない。急に責任を感じて、ラーメンを食べながら少し青ざめた私がそこにはいました。(こすげ・ゆう=ピアニスト)



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