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August 14, 2020

韓国大統領の有力候補、ソウル市長が自殺に追い込まれた本当の理由

韓国の朴元淳(パク・ウォンスン)ソウル市長が7月10日、市内の山中で遺体として発見され、その後、韓国警察により自殺と断定された。次期大統領の有力候補であった朴氏は、なぜ自殺しなければならなかったのか。(国際政治評論家・翻訳家 白川 司)

● 「ポスト文在寅」と 目されていた朴市長

元秘書女性から「2017年からセクハラの被害を受けてきた」と告訴された朴元淳(パク・ウォンスン)ソウル市長が、その2日後の7月10日に亡くなったことが報じられて、韓国社会に衝撃が走った。

朴市長は告訴された翌日の7月9日の公務をすべてキャンセルして、遺書らしきメッセージを家族に残して失踪。ソウル市内の山中で遺体として発見された。韓国警察は自殺と断定した。ソウル市の運営は徐正協(ソ・ジョンヒョプ)副市長が来年4月の補欠選挙まで受け持つこととなった。

朴市長は文在寅大統領の「共に民主党」に所属し、人権弁護士として名をはせた市民運動家出身の政治家である。

朴氏の名前を世に知らしめたのが、1993年の「ソウル大学ウ助教セクハラ事件」である。この事件はソウル大学に勤める女性の助教が、教授から受けていたセクハラを訴えたもの。朴氏はその弁護を無料で引き受けて、6年もの法廷闘争の末勝訴を勝ち取った。これは韓国で初めてセクハラ被害が認められた契機となった。朴氏は韓国社会に「セクハラ」の概念を普及させた功労者だったわけである。

その後、朴氏はフェミニズムに理解のある人権派弁護士として名を成し、女性団体などから熱烈な支持を受けたことが、現在までの出世に寄与したといえるだろう。

ソウル市長は、韓国では大統領に次ぐ重職だと考えられている。ソウル市長から大統領になった人物としては李明博(イ・ミョンバク)氏がいるが、朴市長もポスト文在寅の有力候補だと目されていた人物だった。

朴市長は2011年からソウル市長に就任しており、今期で3期目。弱者救済や環境保護の観点からの政策をいくつも実現して、評価は高かった。本人が大統領職に対して公に意欲を示したことはなかったようだが、「次は大統領選挙に出るだろう」と思っていた人は多く、与党内での支持もあった。

● #MeToo運動が 盛り上がる韓国

アメリカ発の#MeToo運動が世界的な盛り上がりを見せたが、アジア圏でも例外的なほどの盛り上がりを見せたのが韓国だった。

#MeToo運動は、セクハラやパワハラに声を上げられない女性が、勇気ある女性の発言に追随する形で被害を告発して、社会を変えていこうという運動である。なかなか声を上げることができない弱い立場にある女性のための連帯運動だと言っていいだろう。

典型的には、ツイッターでセクハラ被害を告白した投稿に対して、自分も同じような経験したことを#MeTooというハッシュタグでリツイートして、自らの被害も告白するという形になる。

私の体感では、日本では他国ほどは盛り上がらず、2017年にブロガーのはあちゅう氏が電通時代のパワハラを告白したことや、2018年に財務次官セクハラ疑惑で野党政治家がハリウッドをまねて黒い服を着て抗議したことなどが記憶に残るくらいだ。

それに対して、韓国では2018年に秘書女性への性的暴行を告発された安熙正(アン・ヒジョン)忠清南道知事が実刑判決を受け、2020年4月に釜山市の呉巨敦(オ・ゴドン)市長が女性職員からセクハラ被害を告発されて辞職するなど、#MeToo運動が大きなうねりになっている。

それだけに、フェミニズム運動の中心人物として高名な朴市長がセクハラで告訴されたことは、本人にはもちろん、関係団体や支持者にもダメージを与えたことは想像にかたくない。

ただ、朴市長はもともとセクハラ体質の強い人物で、しかも悪質だったと報じている韓国メディアもある。被害を告白した元秘書の女性によれば、性的なメッセージを何度も送り、ボディータッチも頻繁に行っていたとある。「朴市長自身の卑猥な画像を送って、相手の卑猥画像を要求していた」という報道もあり、それが事実であれば儒教社会の韓国では壊滅的なイメージダウンになったはずである。

韓国は、特に女性は実力以上に容姿が重視されて、女性らしさを過度に求められる典型的な男性上位社会だといわれることがある。そのために、美容整形手術が一般レベルに浸透していることは日本でも知られている。

以前、ダイヤモンド・オンラインに寄稿した『韓国の自殺率はなぜOECD加盟国でトップになったのか』でも書いたように、1997年のアジア通貨危機で韓国経済は壊滅的なダメージを受けて、労働者に過剰なサービス残業を強いる超ストレス社会になっている。日本より貧富の差が激しく、日本以上に企業への忠誠心が求められる。

韓国はもともと儒教の影響が根強く年上の発言力が強いので、企業においても上下関係にはかなり厳しい。それだけに、上司の言うことに逆らえない雰囲気があるといわれる。

また、儒教的な教えを自分に課すだけでなく、ネット時代からは相手に儒教的な態度を求める傾向が強まっている。

特に標的になっているのが政治家やタレントなどの著名人たちだ。「反日が倫理」の韓国では、本人たちが気づかない程度の親日的な言動をしたとか、女性としてちょっと奔放な発言をしたといっただけでも、大バッシングに発展することがある。日本でも女子プロレスラーの木村花さんが自殺した事件があったが、韓国では同じような自殺が頻繁に起きている。

● 通貨危機が招いた 保守の弱体化

韓国政治は保守派と革新派が拮抗(きっこう)して成り立っているが、通貨危機以前の韓国は、保守派が力を持っていた。政権を担っている保守派に、革新派が立ち向かっていくという構図があった。もともと労働組合の力が強く、ストライキも頻繁に起こっていた。

ところが、1997年の通貨危機で、国際通貨基金(IMF)の指導を受けてからは保守派の力が急速に衰えた。IMF指導はいまだに韓国国民からは「恥辱の歴史」として語られることが多い。リストラや労働強化による超ストレス社会になってからは、革新系の影響力が増して革新政党が躍進した。

1998年には革新系の金大中(キム・デジュン)氏が大統領になり、それを引き継ぐ形で2003年に盧武鉉(ノ・ムヒョン)氏が大統領になった。この2つの政権が、現在の文在寅政権の土台を作ったと言っていいだろう。

保守派が強く、それを革新派が攻撃するという構図であれば革新派がストッパーの役割をして「チェック・アンド・バランス」が働くが、革新派が政権に就くと「反日」という手段が使えない保守派は、政権にまともに対抗できない。現在がまさにその状態である。

文政権下で保守である朴槿恵前大統領が社会的に抹殺されようとしており、文在寅大統領は「司法改革」などでさらに独裁色を強めて、保守派はさらに追い詰められている。

革新与党に対してストッパーが効かないという現在の状態こそが、政治家の暴走を許す要因になっているのだと考えている。文政権ではいくつもの不祥事が起きているが、処分が曖昧なままやり過ごされることが少なくない。保守派には厳しいが身内にはとことん甘いことが、現政権の特徴だ。

● 7月に起きた もう1つの自殺

7月は実はもう1つの自殺が話題になっていた。7月2日、22歳の女子トライアスロン選手のチェ・スクヒョン氏の自殺である。

チェ選手が監督やドクターや先輩選手からかなり激しいいじめを受け続けて、自殺前には母親に「お母さん、愛してる。あの人たちの罪を明らかにして」とメッセージを送ったと報じられている。

遺族によると「お前は毎日、殴られなければならない」などと言いながらコーチなどから20分もの暴行を受けたり、頬を20回以上たたかれた揚げ句に胸や腹を蹴ったり頭をつかんで壁に押しつけられるなどの暴行を受けそうだ。

ほかにも、選手3人に20万ウォンのパンを買わされ、すべて食べさせられるといういじめも受けていたとも。遺族は警察、検察、トライアスロン協会などにチェ選手へのいじめを告発したが、まともに対処してもらえなかったという。

この自殺は韓国社会に大きな衝撃を与えて、コーチやドクターらは大バッシングを受けており、加害者2人が永久除名、1人が10年資格停止など懲戒を受けている。ただし、本人たちはいじめを否定しており、これからは裁判で争われる。

組織と選手の対立はどんな国でも珍しくないが、壮絶ないじめが行われていたことがわかっても対処しないというのは、組織内で権限のある者を調査・処分するのが難しいことの表れだろう。組織内の監視体制が整っていないのだと考えられる。

もちろんこれはスポーツに限ったことではなく、だからこそ立場の弱い女性たちがそれに対抗するには#MeToo運動が必要になるということなのだろう。

● 告訴した被害者が バッシングの対象に

元秘書のセクハラ告訴の捜査は、朴市長の自殺で終了となった。韓国では基本的に死んだ者は罪に問われないので、自殺は自分の悪評を防ぎ、家族を守るための方策という面もある。

実は、朴市長の自殺をきっかけに、セクハラで告訴した元秘書に対するバッシングが起こっている。「身元を暴き出して制裁を加えろ」といった趣旨の過激なネットの書き込みもあって、かなりの賛同を受け、問題となっている。

現在はこういった書き込みはすべて削除されている。

だが、セクハラを「小さいこと」ととらえて、告発者をバッシングするという風潮も根強く、被害者が責められることから、怖くて告発できないという面もあるようだ。今回も勇気を出して告訴しても、結局、相手の自殺によって自分がまた危ない目に遭うという二重の被害を受けたことになっている。

朴市長の自殺によって、肝心のセクハラ疑惑は宙に浮くことになった。セクハラの告発から、権力者の自殺、被害者バッシングと、本事件は韓国社会が抱えるいくつもの問題点が凝縮されている。

https://news.yahoo.co.jp/articles/1fdd9df79b1b925b6af546e6f56bd0391e59f02b

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