新型コロナウイルスの感染拡大が、投資判断に環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)の視点を取り入れる「ESG投資」の世界に新たな潮流をもたらしている。世界中で発生した新型コロナ対応の資金需要に対し、投資家も積極的に対応。「E」や「G」に比べ後回しにされがちだった「S」の注目度が急上昇している。
新型コロナ対策の資金調達で発行される債券「コロナ債」の発行が相次いでいる。野村資本市場研究所などによると、6月末までに発行されたコロナ債は2758億ドル相当(約29兆7000億円)に上る。
コロナ債の発行拡大に伴って、債券市場では「ソーシャルボンド(社会貢献債)」の存在感が急速に高まっている。
国連の「持続可能な開発目標(SDGs)」の推進に貢献する「SDGs債」のうち、グリーンボンド(環境債)の発行額比率は昨年の8割強から今年上期(1~6月)は約6割に低下した一方、ソーシャルボンドは約6%から約28%に拡大した。
野村サステナビリティ研究センターの江夏あかねセンター長は「ソーシャルボンドは資金使途に新たに新型コロナ対応が加わったことで、発行額の伸び、発行体のセクター(業種)、国、発行通貨などの多様化につながった」と解説する。
コロナ債はこれまで、国際機関や政府系機関が競うように発行してきた。
今後は民間企業による発行拡大が期待される。3月下旬には、米製薬大手ファイザーがワクチンの製造や開発に必要な設備投資などを目的に、サステナビリティボンド(環境・社会貢献債)を出した。
日本企業では、三菱UFJフィナンシャル・グループが6月上旬、ユーロ建てのコロナ債を初めて発行。打撃を受けた中小企業や個人事業主のほか、感染拡大防止や研究開発に取り組む医療機関や製薬会社への融資に使う計画だ。