【主張】EU復興基金 次は対中政策で結束図れ


 欧州連合(EU)が、新型コロナウイルスで深刻な打撃を被った国を支援する「復興基金」の創設で合意した。

 基金創設は首脳会議で決まり、総額7500億ユーロ(約92兆円)に上る。全加盟国が共同で債務を負う方式が初めて承認された。コロナ危機への対応では、EUは足並みの乱ればかりが目立った。

 今回、基金の創設で合意したことは、域内の求心力を高める上でその意義は深い。

 基金の資金は、共同債を発行して、全額を市場から調達する。7500億ユーロのうち、オランダなど財政規律を重視する4カ国の意向を取り入れ、返済不要の補助金を3900億ユーロとした。

 コロナ危機への対応でEU各国は、「移動の自由」の原則を破り国境を封鎖した。自国優先で、イタリアからの医療支援要請に応じず、機能不全を露呈もした。

 それでも基金の創設にこぎつけたのは、会議を主導するメルケル独首相が、欧州再生を旗印にフォンデアライエン欧州委員長らと足並みを揃(そろ)えたのが大きい。メルケル氏は当初、EU内で被害に差があることから、債務を共同して負担する方式を嫌っていた。

 それがEUの結束重視に転換したのは、10年ほど前に起きたユーロ危機の二の舞いを演じたくないとの判断に至ったからだろう。財政破綻したギリシャに対する厳しい監視が、国内における社会的な混乱を招いた経験からである。

 EUの結束を考える上で忘れてならないのは、中国の存在だ。

 一帯一路を掲げる中国の融資を当てにする東欧やG7メンバーのイタリアなどは、対中融和姿勢をとってきた。中国を巨大な投資先とみるドイツの腰の定まらない姿勢も、EUにクサビを打ち込む隙を中国に与えてこなかったか。

 足並みが乱れれば、医療品など物資提供に象徴される中国の「マスク外交」の攻勢にさらされ、欧州が分断されかねない。

 中国による香港国家安全維持法施行を受けて開かれたEU外相会議では、対中アプローチをめぐって、統一した対抗措置をとることで合意した。香港との犯罪人引渡条約や香港市民の滞在要件緩和などが検討されそうだ。

 日本や米英と自由、人権、民主主義、法の支配などの価値観を共有するEUには、対中国政策での連携強化が求められる。



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