韓国の首都ソウル中心部で、「中国人名義の不正パスポートで携帯電話を開通する」と公然と宣伝する販売店の存在が、人気YouTubeのバラエティ番組によって明らかになりました。この問題の販売店は、韓国の大手通信会社であるSKテレコム(SKT)、KT、LG U+のロゴを掲げて営業していたものの、実際にはこれらの通信会社と直接契約のない「非正規店舗」であったことが判明。今回の事例は、通信事業者と契約関係にない一部販売店が、違法または脱法的に携帯電話の開通業務を行う「制度の死角」を象徴するものであり、ボイスフィッシングをはじめとする組織的犯罪への悪用が懸念されています。
YouTube番組「ワークドル」が暴いた違法開通の現場
この不正な携帯電話開通の実態が露呈したのは、YouTubeチャンネル「ワークマン」の派生番組である「ワークドル」での撮影中のことでした。番組では、アイドルグループのメンバーが1日警察官として、在韓中国人が多く居住するソウル市九老区加里峯洞を巡回。その過程で、ある携帯電話販売店が「非法护照開卡(不法パスポート開通)」と書かれた中国語の広告を掲示し、営業している様子が偶然にも撮影されました。この中国語の文言は、正規の手続きを経ず、外国人の不正パスポートを用いてプリペイドSIMカードを開通させるという意味であり、このようにして不正に開通された携帯電話は、しばしばボイスフィッシングなどの詐欺犯罪に悪用されることが指摘されています。
韓国電気通信事業法と「制度の死角」
現行の韓国電気通信事業法では、他人の名義の身分証を利用して携帯電話を開通する行為を明確に禁止しています。しかし、このような違法な携帯電話開通は依然として後を絶たず、一部の販売店が組織的に犯罪行為に関与しているケースも確認されています。特に、通信会社と直接契約を結ばない販売店が、法的・制度的な監視の目をかいくぐり、不正な開通業務を行うことが「制度の死角」として長年の課題となっていました。これにより、犯罪組織が安易に通信手段を入手し、ボイスフィッシング詐欺などの巧妙な手口で被害を拡大させる温床となっているのです。
ボイスフィッシング悪用の深刻な実例と法的措置
不正開通された携帯電話が犯罪に利用される実態は深刻です。2025年3月には、京畿道水原地裁が、外国人名義で実に1139個ものプリペイドSIMカードを不正に開通・販売した50代の携帯電話販売業者に対し、懲役2年6カ月の実刑判決を下しました。この被告は、メッセンジャーアプリ「テレグラム」などを通じて、外国人登録証やパスポートの画像を1枚あたり4万ウォン(約4400円)で購入し、大量の不正な回線を用意していたことが明らかになっています。ソウル東部地検のボイスフィッシング合同捜査団は、こうした犯罪の撲滅に向けた捜査を強化しており、不正に開通された携帯電話や通帳などを公開し、警鐘を鳴らしています。
ソウル東部地検が公開するボイスフィッシングに悪用された不正開通携帯電話と通帳
メディアの役割と今後の課題
今回のYouTube番組による問題提起は、不正な携帯電話開通の闇を明るみに出し、社会に大きな波紋を広げました。YouTubeチャンネル側は、問題となった映像を削除・編集した上で、管轄の警察署に内容を通報したと発表しています。このようなメディアの役割は、社会の不正を監視し、公衆の意識を高める上で極めて重要です。韓国における携帯電話の不正開通は、単なる通信インフラの悪用にとどまらず、ボイスフィッシングをはじめとする深刻なサイバー犯罪、さらには社会全体の治安と信頼を揺るがす重大な問題へと直結しています。法規制のさらなる強化と取り締まりの徹底はもちろんのこと、通信事業者と販売店の間の契約関係の透明化、そして「制度の死角」を根本からなくすための抜本的な対策が喫緊の課題として求められています。
参考資料:
KOREA WAVE/AFPBB News (https://news.yahoo.co.jp/articles/025d274fc4d406b77c556a3de1172e9cd5ad7617)