「ありがとう」女性准看護師、支援に涙





東京高裁で逆転無罪を言い渡され、支援者らに感謝を述べる准看護師の女性=28日午後、東京都千代田区(加藤園子撮影)

 長野県安曇野(あづみの)市の特別養護老人ホームで平成25年、おやつのドーナツを食べた入居女性=当時(85)=が後に死亡した介護事故をめぐり、逆転無罪を言い渡した28日の東京高裁判決。裁判長から「被告人は無罪」と告げられると、スーツ姿の女性准看護師(60)は安心したように深く一礼した。閉廷後は支援者らの前で「弁護団や全国のみなさまのおかげ。長い時間支えてくださり、本当にありがとうございました」と涙をぬぐった。

 今回の事故では、入居女性に十分な注意を払わなかったとして、業務上過失致死罪に問われた准看護師に対し、1審長野地裁松本支部は昨年3月、検察側の求刑通り罰金20万円を言い渡し、准看護師側が控訴していた。

 施設内での介護をめぐる死亡事故で職員個人の刑事責任が問われたのは異例で、全国の介護関係者らが注目した刑事裁判だった。

 弁護団によると、事故が起きた老人ホーム「あずみの里」の地元・長野県では、准看護師が起訴されたことで介護人材の確保に不安を抱く声が上がったほか、実際に固形のおやつを控える施設が出るなど、介護現場が「ぴりぴりとした状況になった」という。

 しかし東京高裁はこの日の判決で、入居女性に窒息につながる嚥下(えんげ)障害などのリスクがなかったことや、おやつがドーナツからゼリーに変更されたことを介護職員しか把握していなかったことなど現場の実態を重視。ドーナツでの窒息を予見できる可能性を「相当低い」とし、施設での間食を含む食品提供について「健康維持だけでなく、精神的な満足感や安らぎを得るのに有用。その人のリスクに応じて幅広く摂取することは、人にとって必要だ」と指摘した。

 高裁判決について、弁護団の木嶋日出夫団長は「当たり前のことを正面から認定してくれた素晴らしい判決だ。安全性だけが叫ばれ、リスクがあるなら流動食しか与えられないという流れになりかけていた。判決はこうした結果責任論の風潮に歯止めをかけてくれた」と評価。さらに「介護施設の実情に対する理解を欠いて、犯罪として事故を訴追した」と捜査当局に抗議の意を示し、検察当局に対し上告すべきではないと訴えた。



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